元皇女なのはヒミツです!


 侯爵令嬢は既製品の学園の制服がまるで夜会のドレスかと錯覚させられるような優雅な足取りで去って行った。

 グレースはその場に一人ぽつねんと取り残される。灰色の影がみるみる黒く滲んでいった。




 それからグレースは、ふらふらと王立公園まで歩いて行き、ベンチに座ってぼんやりと空虚な時間を過ごした。
 頭の中には水害のときの思い出やエカチェリーナ様のこと、学園に入学してからの出来事、帝国人、平民、そして平民……それらのことがぐるぐると駆け巡って彼女を刺激する。なんだか目眩がした。

「フローレンス様の言う通りだわ……」

 侯爵令嬢の言い分はごもっともだと思った。
 あの平民はたった一人であたしたち貴族の世界を踏みにじった。あの女は涼しい顔をして、あたしたち貴族から奪っていく。そして……エカチェリーナ様の大切な人までを。
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