元皇女なのはヒミツです!

「よ、用事って……?」

 私は思わず一歩後ずさる。なんだか怖い。いつもの彼女じゃない。一体どうしちゃったの……?
 そのときセルゲイが不穏な空気を察して、重なるように私の半歩前に出た。

「簡単な用よ。すぐ終わるわ」

「グレース、君が皇女殿下のことをどれだけ慕っているかはよく分かった。朝のことだったら俺も悪かっ――」

「あら、別に貴族は謝らなくてもよくってよ。全ての原因はそこの平民なんだから」

「……なんだって?」

 セルゲイが眉をひそめる。

「あたし、今日一日考えたのよ。そもそもが平民が貴族の世界に足を踏み入れたことが原因なんだわ。そして貴族の秩序を乱して、今度はエカチェリーナ様の大切な方を奪おうとしているわ。だから、自分がどんなに愚かな行為をしているか一度分からせてあげないと」

 グレースは背中に隠していた右手を勢いよく突き出した。その手には使い古してすっかりしわくちゃになった紙袋が握られていた。
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