元皇女なのはヒミツです!

「そ、それはっ!!」

 私は血相を変えて大声を上げる。
 その紙袋にはフレデリック様からいただいた手紙が全部入っているのだ。皇女時代は宝石箱に大切にしまってあったけど、今ではペラペラの紙袋が入れ物だ。封筒は嵩張るのでアレクセイさんの家に置かせてもらって、中身を年代別に分けて麻の紐で束ねてある。それでも結構な量になって、長い物語が描かれた一冊の本のように、ずっしりとした重みがあった。

 グレースは紙袋に手を突っ込んで、無造作に一部の手紙の束を取り出した。数え切れないくらい何度も何度も読み返した手紙たちだ。紙は傷んで手垢も付いて、見栄えの良いものではなかった。

「きったないわねぇ」グレースは顔をしかめながら、麻の紐を親指と人差し指だけで持つ。「こんなもの、見るのも不快だわ」

「返して!!」

「あら、その様子じゃあ本当にあんたの大切なものなのね? あたしの勘が当たって良かったわ。家族の手紙かしら? それとも一丁前に故郷に恋人でも残して来たの? あんたのリーズでの尻軽な様子を見る限り、然もありなんって感じ?」と、グレースはくすくすと笑う。
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