元皇女なのはヒミツです!
ふいにグレースが持つ手紙の束の麻の紐がほどける。手紙は風に吹かれた花弁のようにふわりと広がって宙を舞った。私は思わず手を伸ばすが、それらは地面に落ちる前に炎の壁の中に儚く溶けた。
「あら?」
ひらひらと一枚の便箋がグレースの足元に舞い降りる。彼女はおもむろにそれを拾った。
「グレース! 返して!!」
「嫌よ。――そうだわ、話の種に平民の愛の囁きでも読んでみましょうか。きっと滑稽だわぁっ!」
「やめてっ!!」
「やめろっ、グレース!」
グレースは冷たい笑いを浮かべながら二つ折りの便箋を開いた。
「ええっと……親愛なるエカチェリーナ様 いかがお過ごしでしょうか? リーズはまもなく夏になります。僕は今年も小さなお姫様と避暑地へ向かう予定です。帝国人のあなたがこちらに来たら真夏の暑さに驚いてしまうかもしれませんね。だからリーナ専用の別荘を建てようかと考えているのですが、真面目なあなたのことだから税金の無駄遣いだって怒るでしょうか――」
グレースはかっと目を見開いて炎越しに私と手紙を交互に見た。そしてまた手紙に戻って食い入るように見つめる。
「――早く君に会いたい フレデリック・リーズ…………!?」