元皇女なのはヒミツです!

 グレースはその場に凍り付いた。
 そして、彼女の濁った瞳に再び光が輝いた。

「その手を離しなさいっ! セルゲイ・ミハイロヴィチ・ストロガノフっ!!」

 それと同時に私が叫ぶ。
 セルゲイは一瞬だけ力を緩めた。その隙に私は彼の腕からするりと抜け出して炎に向かって手を伸ばす。

「殿下!!」

「エカチェリーナ様っ!! 駄目えぇぇぇぇっ!!」

 グレースのほうが早く炎の中に突っ込んだ。そして半分灰になった手紙を半狂乱で掻き集める。

「グレース! まずは魔法を止めろ!」

「で、でもっ! エカチェリーナ様のお手紙がっ!!」

「いいから! 早くっ!」

 グレースは慌てて呪文を詠唱して炎を消した。

 あとに残ったのは、灰になった手紙と黒焦げて煤だらけの顔のグレースだけだった。彼女は真っ青な顔をしてガタガタと打ち震えていた。

 私はよろよろと半歩前へ出て跪く。グレースもその場にへたり込んで、綺麗な顔をしわくちゃにさせながら号泣していた。

 真っ黒になった手紙にそっと手を触れる。
 それらは簡単に砕けて、煙のように消えた。

「は、はは……」

 乾いた笑いが出た。

 全部……全部なくなった。フレデリック様の手紙が。私たちの思い出が。
 もう、二人を繋ぐものはなにもない。

 唯一の拠り所が消えて、私は本当にただの平民になってしまったような気がした。
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