元皇女なのはヒミツです!
「殿下」と、セルゲイに声をかけられてはっと我に返った。彼は困ったように目配せをする。
そうだわ……このままここでぼうっと座り込んでいるわけにはいかないわ。この場を収めることができるのは私しかいない。
前を、見なくては。
私は瞳に残った涙を袖で乱暴に拭いて、唇を噛んだ。
「顔を上げなさい、グレース・パッション伯爵令嬢」
私は敢えて皇女エカチェリーナとして彼女に声をかけた。
「はい……」
グレースはゆっくりと顔を上げる。その顔は煤で真っ黒けで髪も乱れて酷い有様だった。彼女は怯えきった表情でぷるぷると震えながらこちらを見つめていた。
私は軽く息を吐く。
なんだか身体の芯が抜け落ちたみたいに、脱力感でいっぱいだった。それと同時に妙な開放感もある。まるで巻き付いた鎖が外れて、自由に飛び回れるようなふわふわした不思議な感覚だ。