元皇女なのはヒミツです!
「ごめんなさい。今日はあなたとは挨拶しかしてなかったわね」
「もう、びっくりしたわ。昨日グレースと大喧嘩したのに、今日はとっても仲良くなっているんですもの」
「いや……まぁ……放課後いろいろあったのよ」と、私は肩をすくめた。
「でも、これでリナへの嫌がらせが減りそうで良かったわ」
「だといいんだけどね」
私たちは取り留めのない話をしながら帰途についた。入学のときから懇意にしてくれている彼女と一緒にいるのは心が落ち着いた。グレースは常に喧しいからね……。
「ねぇ、来週のお祭なんだけど――」
「あぁ、あれね! たしかグレースが行くわよって言っていたわね。初めてだから楽しみだわ」
「リナはグレースと一緒に回るの?」
「えぇ。それとセルゲイも。オリヴィアはやっぱりパーティーで一緒に踊った子爵令息と?」
「一応誘われてはいるんだけど……」
「素敵じゃない! いいなぁ~、お祭デートかぁ。羨ましいなぁ~」
「リナもセルゲイとデートでしょう?」
「セルゲイ!?」
思わず、身体がビクリと硬直した。今日はどうしても彼のことを無駄に意識してしまう……。
「どうしたの?」と、オリヴィアが首を傾げた。私はみるみる顔が火照る。
「……もしかして、セルゲイとなにかあった?」
僅かの間、目が泳いだ。
「い、いえ、なにもないわ……。そ、それじゃあ、私はこれから定食屋の仕事だから。また明日ね!」と、私は逃げるように彼女と別れた。
なんで私はセルゲイのことをこんなに気にかけているのかしら……。あのとき強く抱きしめられた感覚がにわかに蘇って、打ち消すように慌てて首を左右に振った。