元皇女なのはヒミツです!

「そ、それは……」

 グレースは口ごもった。取り返しのつかない過去の愚行が、自身の胸をチクチクと突き刺す。

「ちょっとは他人の気持ちも考えろ。君の悪い癖だ。ま、今回ははっきり言わないリナも悪いけどな」

「…………」

「これはリナとオリヴィアが向き合ういい機会なんだ。一時間くらい我慢しろ」

「分かったわ……」

 グレースは悄然と頷いた。
 たしかにあの日以来、頭の中はリナのことでいっぱいになって周りが見えていなかった。恩人であるエカチェリーナ様に奇跡的にお目にかかれて舞い上がっていたわ。言われてみればジェシカとデイジーからも「リナにまとわり付きすぎ」って苦言を呈されていた。
 ……オリヴィアには悪いことをしたのかも。

 そうね……もう少し、周囲を俯瞰できるようにならなければいけないわ。きっとエカチェリーナ様の侍女になるのに必要な能力なはず。エカチェリーナ様が王太子妃になったら、あたしが侍女頭になるんだから!


 ――そんなグレースの妄想なんてつゆ知らずのセルゲイは、彼女がやっと理解したものだと満足げに頷いて、

「よし、俺たちもどっかで時間を潰すか。二人でミルキーウェイ・リヴァーでも行く?」

 と、からかうようにニヤリと笑ってみせた。

「いっ……行かないわよっ!!」

 グレースは顔を真っ赤にして叫ぶ。


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