元皇女なのはヒミツです!
フレデリックとアメリアが公爵家を出たその時だった。
「王太子殿下」
振り返ると、数人の近衛騎士たちが彼らを待ち構えていた。それは国王直属の選りすぐりの騎士たちだった。どの人物も強靭な肉体で、少しも隙のない峻厳な雰囲気を持っていた。
「なんだ」
フレデリックの声色も自然と厳しくなる。
「我々とともに至急王宮までお戻りください。国王陛下がお呼びです」
「父上が?」
「はい。本日、午後よりフォード侯爵令嬢との婚約式を執り行うそうです。ですので、ご準備を」
「なっ……!」フレデリックは目を見張った。「婚約式は来週のはずだぞ!?」
「侯爵家からの提案だそうです。国の象徴である守護神の祭典に婚約を発表したほうが国民も盛り上がるのではないかと」
あの女……と、フレデリックはぎりりと唇を噛んだ。
「参りましょう、殿下」
「私は戻らぬと父上に伝えろ」フレデリックは手を振って拒絶する。「当事者の私が不在の間に事を進めるとは不愉快極まりない。婚約式の日程を変えるつもりはない」
そんな日は永遠に来ないがな、と彼は心の中で嘲笑した。
「王命です、殿下」
「なんだと?」
フレデリックは息を呑んだ。
近衛騎士は矢庭にフレデリックの眼前に書面を突き付けた。そこには王のサインもしっかりと書かれれてあった。紛れもない本物だ。
フレデリックは唖然とする。
父上はそこまでして嫡男と侯爵令嬢と婚約させたいのだろうか。普段は思慮深い父上にしては性急すぎて、首を傾げるばかりだ。
まさか……あの女の毒牙が父上にも……?
「王命は絶対です。たとえ王太子殿下でも拒否をすれば反逆罪にあたります」と、近衛騎士たちは剣の柄に手をかけた。