元皇女なのはヒミツです!
「オリヴィア! やめて! それにはお母様たちの大切な思い出がつまっているの!」と、私は懇願するが彼女は全く聞く耳を持たずに侯爵令嬢にそっと手渡した。
「あっ……」
侯爵令嬢は微笑んで、
「これでチェックメイトね。あなたが皇女だという証明もできなくなるわ」
彼女の右手から黒い影が吹き出した。影は煙のようにどんどん増える。そしてじわじわと集まって――大きな獣の頭になった。それは狼のような獰猛な顔つきで、鋭い牙を剥き出しにして吠える。魔力の圧力が突風となって私を襲った。
そして、
「餌よ」
侯爵令嬢はその獣の頭上に、ブルーダイヤモンドの首飾りをゴミみたいにぽいと放り投げる。首飾りは深淵のような真っ黒い大きな口の中に入り込んで、獣はバリバリと音を立てながら噛み砕いて飲み込んだ。
「そんなっ……」
私はその様子を呆然自失と眺める。ガクガクと膝が震えた。
消えた……。現在の私とアレクサンドル皇家を唯一繋ぎとめてあったブルーダイヤの首飾りが……。
フレデリック様の手紙はもうない。あの首飾りもなければ、私は……何者になるの?