元皇女なのはヒミツです!



「セルゲイ!」

 アメリアの言葉ではっと我に返る。彼女は困り顔でセルゲイを見上げていた。

 セルゲイは軽く息を吐いて姿勢を正す。汗が出る。胸が苦しい。だが皇女のただの一臣下である自分が、皇女の恋の相手の王太子に向かって、悋気なんて見苦しい感情を起こしてはいけない。

 自分は……皇家を臣従する公爵家の人間だ。
 それ以上のことは、なにもない。

「ねぇ、今日はリーナお姉様と一緒じゃないの?」

「あ、あぁ……リ――皇女殿下は途中でオリヴィア・ミルズ男爵令嬢と行動されることになって、一時間後にここにいらっしゃるはずだったんだが……」

「公爵令嬢、そのときの男爵令嬢の様子がなんだかおかしかったんです! だから、なにか事件に巻き込まれたのかも! エカチェリーナ様は時間に正確な方ですから、無言で遅れるなんてあり得ない! 早く探しに行きましょう!」

 同じく王太子と公爵令嬢の愛称呼びで察したグレースは、セルゲイとは反対に興奮していた。にわかに身体が火照って、覚醒したみたいに目がチカチカした。
 ついに、エカチェリーナ様と王太子殿下が結ばれるときがやって来たのね! あたしが絶対にお二人の恋を成就させなくては……!
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