元皇女なのはヒミツです!
「「えっ……?」」
二人は言葉を失った。巷ではフローレンス・フォード侯爵令嬢との婚約は既定路線だとは言われていたが、こんなにも事が運んでいるなんて。
「それで、王太子殿下はエカチェリーナ様のために王命を拒否して、これから二人で愛の逃避行をするのですねっ!?」
ロマンス小説が好きなグレースが瞳を輝かせた。
なんて素敵な大恋愛なのかしら! 冤罪をかけられた愛する二人が手を取り合って逃亡して、最後は悪の陰謀を打ち砕いて、改めて祖国に戻ってきて名君となって国を治めるのね!
「いや……」フレデリックはまっすぐと前を見据えて言う。「僕は逃げないよ。リーナのために最後まで戦うつもりだ」
「まぁっ!」と、グレースは歓喜した。早くエカチェリーナ様のもとへ行って、王太子殿下のおっしゃったことを一言一句正確にお伝えしなければ!
「ですが、皇女殿下はカトコフ副大統領から皇女の件は他言無用にするようにと厳しく言われている、と……」
「あぁ、それは問題ない。彼とは話をつけてきた。君の家門にも協力を仰いだよ」
「そうですか……」
セルゲイは微かに唇を噛む。アレクサンドル皇家の忠臣の父上なら皇女の復帰に喜んで手を貸すだろう。きっと今頃、皇女殿下の地盤を確固たるものにするために奔走しているに違いない。
もう……本当に俺の役目も終わりなんだな――と、にわかに彼に寂寥感が襲ってきた。走馬灯のようにリナとの思い出が駆け巡る。
それを振り払うように、セルゲイは頭を振った。
だが、仕方ない。
リナが幸せになれば、それでいい。