元皇女なのはヒミツです!
そのとき、
「危ない!」
突如、フレデリック様が私を抱きしめながら地面に転がった。同時に、バリバリと耳をつんざくような高音を鳴らしながら黒い稲妻が私たちの上を過ぎった。土煙が舞い上がる。暗い砂塵の中にゆらゆらと人影が見えた。
「フレデリック殿下……」
侯爵令嬢の鈴を転がすような声が響いた。静かな足音がする。埃まみれの霧が晴れて、だんだんと彼女の姿が見えて、
「っ……!」
彼女の様子を認めてぞくりと鳥肌が立った。口角は上がっているけど糸で無理矢理吊り上げたみたいに酷く不格好で、赤紫の宝石のような蠱惑的な瞳は墨を垂らしたように濁っていた。まるで生気が感じられない古い人形のような異様な雰囲気だった。
「殿下、迎えに来てくださったのですね。嬉しい! さぁ、婚約式に参りましょう」と、彼女は歪んだ笑顔をフレデリック様に向ける。
「……その魔法、闇属性だな」と、彼は彼女を睨め付けた。
「えぇ、そうですわよ。素敵な魔法でしょう?」と、彼女はくすくすと笑う。
「闇魔法の持ち主は国に報告義務がある。お前もリーズの貴族なら知っているはずだ」
「あら? そうでしたっけ?」侯爵令嬢は惚けた顔で首を傾げる。「すっかり失念していましたわ」