元皇女なのはヒミツです!
「くっ……!」
フレデリック様がついに彼女の魔力に押し負けてよろめいた。
「あら、もう終わりですか? 意外にあっけないですわね。ふふ……浮気者には仕置が必要ですわ」
侯爵令嬢の右手に黒い霧が渦巻いた。
そのとき、床が微かに黒光りするのを私は見逃さなかった。
そうか、まだ床一面の魔法陣は生きている。きっとあれが彼女の力の源なのね。狩り大会のときも奇怪な魔法陣から無限に魔獣が現れていたわ。あれを叩けば……!
私は全身の神経を集中させて、急いで呪文を唱える。そして魔力を侯爵令嬢の魔法陣に注ぎ込むように一筋放った。以前机の上に落書きをされたときに、凍結させて破壊した魔法の応用だ。
すると、黒い魔法陣がひっくり返るように一気に凍り付いて白く染まった。
「なにをっ……!」
私は挑発するようにニッコリと笑顔で侯爵令嬢を見ながら足元の氷を踏んづけた。パリン、とひび割れるような音がしたと思ったら、連鎖してバリバリと鏡が割れるように全てが破壊された。
蜘蛛の糸のように部屋中に立ち込めていた侯爵令嬢の魔力が薄くなったのを感じた。