元皇女なのはヒミツです!
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「本当にリナがエカチェリーナ様なのね……」
オリヴィアは驚嘆した様子で、ほぅとため息を漏らした。
私は彼女を寄宿舎の自室に呼び込んで、アレクサンドル皇家に代々伝わるブルーダイヤモンドの首飾りと、グレースが手にしたままで辛うじて燃えなかったフレデリック様からの手紙を見せて、これまでの経緯を説明をしたのだ。
彼女は最初は唖然として硬直していたが、なんとか正気を取り戻して今はセルゲイの相談の続きをしていたところだ。
「そうなの。その……今まで黙っていてごめんなさい」
「そんな、謝ることはないわ。たしかにこれは……誰にも言えないわね。打ち明けてくれてありがとう。――それで……リナはどうするつもりなの?」
「アレクセイさんからはフレデリック様には絶対に言うなって言われていて……」と、私は眉を曇らす。
「そうね……今の連邦国の情勢だと仮に皇女様が生きていたって露顕したら、間違いなく内戦に突入するわね。そうしたら大陸中が混乱するのは必至だし……それに、最悪はリナが殺されてしまうかもしれない」
「そうなの。旧帝国民の命を守るためにも、私の秘密は墓場まで持って行ったほうがいいと思ってる。だから……フレデリック様のことは忘れないといけないし、その覚悟も固まってはいるのだけど……。じゃあ王子様が駄目なら今度は公爵令息なのかって、なんだか自分が軽薄な人間に思えてしまって…………」
昔のグレースたちが私のことを男たらしだとか罵倒していたけど、あながち間違いではないのかもしれない。
私はなんて自分勝手な人間なのだろうか……。
「ねぇ、リナはセルゲイのことをどう思っているの?」
「えぇえっ!?」
思わず声が上擦った。突然そんなことを聞かれても、どう答えたらいいのか……。
「よく考えてみて」
「せっ……」私は絞り出すように声を出す。「セルゲイは私のことをたくさん助けてくれて、彼のおかげで今は平穏な暮らしができているから感謝してもしきれないわ。だから大切な友達なの」
「それだけ?」と、オリヴィアは首を傾げた。
「えっ?」
「リナはもっと自分の心に素直になったほうがいいと思うわ」
「ど、どういうこと……?」
「リナはセルゲイの前では自然体でいつも楽しそうに笑っているように見えるわ。それに二人はいつも一緒にいるし。それって、リナにとってセルゲイは特別な存在なんじゃないの?」
「それは…………」
私は押し黙った。みるみる顔が熱くなるのを感じる。
セルゲイはいつも自分の側にいて、それが日常の一部で……自分にとって当たり前になっていたから、そんなこと考えてもみなかったわ。
私にとって、彼は特別な存在?
いえいえ。
私は首をぶんぶんと左右に振る。
たしかに秘密を共有していることもあって、セルゲイの存在は大きいのかもしれない。……だけど、私は平民で彼は大貴族。感情だけでどうこうできる相手ではない。
「で、でも! セルゲイが貴族籍を抜けると彼が不幸になるわ!」
「それはリナが勝手にそう思い込んでるだけだわ。不幸かどうかはセルゲイ自身が決めることよ」
「だって、普通に考えたら――」
「リナ、今日は言い訳ばかりね。らしくないわ。……ま、事情が事情だし、あなたが臆病になるのも分かるけどね。でも、このままセルゲイから逃げ続けるのは良くないと思う。彼に対しても誠実じゃないわ。だから、ちゃんと自分の心と向き合って」