元皇女なのはヒミツです!

2 炎の道を行く

「あ、ありがとう……」

 私はお礼を言ったものの、やはり過剰にセルゲイを意識してしまってつい視線を逸らしてしまった。
 心臓がバクバクする。
 なんでこんなに緊張しているのだろう……。

「ったく。なにボケっと歩いてるんだよ。危ないだろ」

 対するセルゲイはいつも通りにフランクに接してくる。それは帝国時代とは打って変わって、元皇女の私に対して相変わらず雑な扱いだ。でも、これはこれで心地いい……かもしれない。

「別に」

「はぁ?」

 やっぱりまだセルゲイの顔をまともに見るのが照れくさくて、私はそそくさと前へ進む。すると、彼は私の隣を歩き始めた。

「これから定食屋だろ? 食べに行ってもいい?」

「いいけど……。一度寄宿舎に戻らなくてもいいの?」

 セルゲイはまだ制服姿だった。おそらく学園からそのまま向かって来たのだろう。

「あぁ。もうこんな時間だし、いちいち着替えるのは面倒だからな」

「今日は遅かったのね。生徒会?」

 私は前を見たままぶっきらぼうに会話を続ける。今の自分には平常心を保つために、これが精一杯だ。

「それもあるが……グレースの奴に捕まってさぁ……」と、セルゲイは大きなため息をついた。

「グレース?」

 私は目を見開いて思わず彼を見た。

 グレースはあの日以来、エカチェリーナだった私にすっかり懐いてしまって、今では嫌がらせなんて最初からなかったかのように私にべったりなのだ。それはもう学園にいる間は四六時中くっついて来て、はっきり言って迷惑である。でも、彼女に悪気はないから邪険にできないのよねぇ……。

「そうだよ。帝国時代のエカチェリーナ様のことをもっと教えろって、しつこく迫ってくるんだ。今日も皇女様のドレスだとか飲んでいた茶葉の種類だとか根掘り葉掘り聞かれて参ったよ……」と、彼は肩をすくめた。

「グレースは猪突猛進だからねぇ」私は苦笑いをした。「きっと気の済むまで質問攻めをしてくるわよ」

「勘弁してくれよ……」

 私はくすりと笑って、

「グレースには、聞きたいことがあれば直接私のところに来なさいって言っておくわ」

「悪い。――って、そしたらリナの負担が大きくならないか? ただでさえ毎日あんなに付き纏われているのに」

「自分自身のことだし問題ないわ。それに、これ以上セルゲイに迷惑をかけられないし」

「べ、別に俺は迷惑ではない」

「じゃあ、明日からグレースの相手は全部あなたに投げるわね」と、私はしたり顔をした。

「新手の嫌がらせかよ……」

 私たちは顔を見合わせる。そして同時にぷっと吹き出して、しばらくケラケラと笑った。

 その後はすっかり肩の力が抜けて、前みたいに自然と彼と話せるようになった。私たちはとりとめのない話をしながら仕事場まで向かった。

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