元皇女なのはヒミツです!
「リナ~! やっと来たぁー!」
「救世主~!」
「助けてくれー!」
職場の定食屋に着くと、マーサさんたちが私をまるで神のように崇めながら迎えてくれた。
「ど、どうしたんですか?」
「いやぁねぇ、今日は病欠が出ちまってさ、おまけに想定外の団体客も来ててんてこ舞いなのさ」
「まぁっ……!」
店内をぐるりと見回すと、まだ暗くなっていないのに既に満席状態でがやがやと賑わっていた。料理の催促の声もちらほら聞こえてくる。
「急いで準備しますね! ――セルゲイごめん、今日はゆっくりできないかも。悪いけど、空いている席に一人で――」
「俺にも手伝わせてください」
「えぇっ!?」
彼の思い掛けない申し出に、私は目をぱちくりさせた。
て、手伝うって……平民の労働を公爵令息――しかも、大陸で一番の大貴族と謳われるストロガノフ家のお坊ちゃんが? それは……いろいろ不味いのでは……?
「お願いします」と、セルゲイはマーサさんに頭を下げる。
マーサさんはニッコリと笑顔を向けて、
「それは助かるねぇ。なにせ猫の手も借りたいくらいだ。さぁ、こっちだよ」
「ありがとうございます」
「礼を言うのはこっちのほうさ」
セルゲイも従業員用の部屋へと入って行く。
「ちょっ……い、いいの?」
「マーサさんにはいつも世話になってるからな。微力だが、こういう時くらい役に立たないと」
「いや、そうじゃなくて。仮にも高位貴族が……」
「なに言ってるんだ。ここではそんな些末なことは関係ないだろ」