元皇女なのはヒミツです!
セルゲイはお店のエプロンを付けて皿洗いと配膳を手伝った。
ストロガノフ家の令息が給仕なんて、きっとご両親が見たら泣くわよ……って不安だったけど、彼は身分なんてどこ吹く風で案外楽しそうに働いていた。
仕事中に、ちょっとした騒ぎが起こった。
セルゲイが厨房の奥での皿洗いを終えて表に出て給仕をはじめたときだ。彼の氷像のような見目麗しい姿に店じゅうの女性陣が色めき立った。
そして彼女たちはどうにかして彼とお近付きになろうと、メニューを追加注文したり下げものなどを遠くにいる彼をわざわざ呼んで頼んだり、更にはどこから聞きつけたのか「物凄い美形の少年が働いている」と女性客が外からわらわらと集まって来て、ただでさえ忙しいのにもっともっと激務になった。
もう満席だと追い返そうとしても、彼女たちは「立ちでいい」とドリンクだけ頼んでセルゲイの働く様子を見つめている。そして隙あらば彼に話し掛けていた。
挙句の果てには、小金持ちのマダムと夜のお仕事のお姉様が「自分が美少年をお持ち帰りする」と主張して、掴み合いの大喧嘩になって危うく店全体で乱闘騒ぎになるところだった。
本当に……疲れたわ。
たしかにセルゲイははっとするほど綺麗な顔をしているとは思うけど、ここまでの破壊力を持っていたとは……。彼もすっかり疲弊しているようで、美形は美形なりに大変そうだ。そういえば、学園内でもしょっちゅう令嬢たちに絡まれていたわね。
でも……なんだか、面白くない……かも。