元皇女なのはヒミツです!

4 炎の道を行く

「いい天気ねぇ~」

「本当。晴れて良かったわ」

「長閑ね」


 今日は待ちに待ったピクニック。
 私たちはミルズ男爵家の用意した馬車に揺られて、郊外の湖までやって来たのだ。

「うわぁ~っ! すっごい綺麗!」

 新緑の気持ち良い香りの森を抜けると、そこには空を描いたような青い湖が広がっていた。
 水面は陽の光を反射してキラキラと輝いて、水鳥たちがすいすいと泳いでいる。ほとりには草原のように緑の絨毯が敷かれていて、可愛らしい小花がカーテシーをするように控え目に咲いて、周囲にはヒラヒラと蝶々が舞っていた。

「別荘の購入はこの湖が決め手になったの。お母様がすっごく気に入って、日中はここで本を読んだり刺繍をしたりして、のんびり過ごしているわ」とオリヴィア。

「ここは王都と違って穏やかでいいわね。ま、王都の活気のある街並みもワクワクして好きなんだけどね」

「王都の公園もいつも人でごった返しているしな」

「なかなかベンチに座れないのはちょっとね」

「あたし、ボートに乗りたい!」

「ふふっ、グレースったら張り切っちゃって。――あ、そうだわ。今日はお弁当を作ってきたの。良かったらあとで皆で食べましょう」

「マジで? ビーツのサンドイッチある?」

「もちろんあるわ。セルゲイの好きなものたくさん作ってきたから」

「やった! ありがとう、リナ」

 セルゲイは綺麗な顔をくしゃりと崩した。食べ物だけでこんなに喜ぶなんて子供みたいに単純だわね……って呆れちゃうけど、そんなに嬉しがってくれるなんて朝早く起きて作った甲斐があったわ。
 
 ふと視線を感じて振り返るとグレースとオリヴィアがニマニマと奇妙な笑みを浮かべながら私を見ていた。

「な、なに?」と、私は首を傾げる。

「いえいえ! お弁当あたしも食べたいなって思って!」

「そうそう。リナの手料理は美味しいから」

 あぁ~、それで二人とも嬉しそうにしていたのね……と私は首肯する。

「たくさん作って来たから二人もいっぱい食べてね! ――って、グレースは庶民の料理は口に合わないかしら」

「そんなことないですわ! あたしはリナの作ったものなら泥団子だって美味しく戴くわ!」

「いや、それはそれで引くから」

「昼食は湖を見渡せる丘の上の東屋でいただきましょう。わたしも楽しみにしているわ!」

「まずはボートね、ボート!」

「従者が準備をしてくれている間に少しほとりを歩きましょうか」

 私たちはちょっとの間、周辺をぶらぶらと散策することにした。


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