元皇女なのはヒミツです!
「――きゃっ!」
にわかに、ボートがくるくる回り始めた。オリヴィアが困ったように眉根を寄せる。
「ごめんなさい、急に運転できなくなっちゃった! どうしましょう!」
オリヴィアは必死になってオールを動かすが、ボートはなかなか前進しない。
「おっと」
ゴンと低い音がして、にわかにボートの動きが止まる。見ると、セルゲイが自身の乗っているボートを体当たりさせて動きを止めてくれていた。
「大丈夫か?」
「ありがとうセルゲイ。リナ、ごめんね。大丈夫だった?」
「平気、平気。良かったらまた交代しましょう」
「そうね」
「リナ、大丈夫なのか? 俺が手伝おうか?」
「べ、つ、に!」
私はセルゲイを思い切り睨みつけた。
そして場所を交代しようと立ち上がった折も折、日差しのせいか急に立ちくらみがしてきて、身体のバランスを崩してしまう。
「えっ――」
「リナっ!?」
「エカチェリーナ様っ!!」
「リナ! 危ない!!」
セルゲイが飛び上がるように腕を伸ばして、倒れていく私を受け止める。そしてぐいっと押し上げて、私は元の通りにボートの上に着地した。
一方、セルゲイは――、
――バシャン!
大きな音を立てて、打ち付けるように湖の中へと落ちていった。
「きゃあぁっ! セルゲイっ!!」
私は慌てて水の中に手を突っ込むが、彼の身体に届かずに二、三度水を掻くだけだった。
「セルゲイっ! セルゲイっ!」
彼を助けようと、急いでボートから身を乗り出す。
「リナっ! 危ないわっ!」
すると、オリヴィアが必死に私の胴体に抱き着いて制止した。
「離して! セルゲイが!」
「今、救援が来ているから! ちょっと待ってて! リナまで水の中に落ちたら大変よ!」
「でもっ!」
「落ち着いて!」
そうこうしている内に、水面下からぶくぶくと泡立つ音が聞こえたと思ったら、
「――っぷはぁっ!!」
セルゲイが自力でボートまで這い上がって、ゲホゲホと激しく咳き込んで水を吐き出してから気を失った。