元皇女なのはヒミツです!
「うわぁ……! 素敵っ!」
そこは、ミルキーウェイ・リヴァーが一望できる高台に建っているドーム型のテントで、中はゆったりとしたソファーと広々としたテーブルが置かれていた。テーブルの上にはお酒や食べ物が所狭しと並べられている。
「こんな場所があったなんて……凄いわね」
「あぁ、生徒会のメンバーが教えてくれたんだ。ミルキーウェイ・リヴァーは混雑するからVIP席を取ったほうがいいって」
「へぇ~、高位貴族の情報網ってやつね。こんな素敵な場所を……。ありがとう、セルゲイ」
「どういたしまして。まさかあんなに混むとはな。予約しておいて良かったよ」
「そうね……って、オリヴィアとグレースは?」
気が付くと、二人の姿はどこにもなかった。もしかして、また逃げたの!?
「あぁ~、なんか周辺を探検するって」
「探検んんっ?」
あの子たち……わざとね。私たちを二人きりにさせ……二人きり!?
ドキリと心臓が鳴った。鼓動がどんどん早くなる。こ、こんな場所で二人きりって……。
「リナ、座って」
セルゲイはもうソファーに腰掛けて、私を手招きする。
「う、うん……」と、そろそろと彼のもとへ向かった。
「わっ!」
ソファーはふっかふかで私は沈むように着席した。背もたれもゆったりしていて、これじゃあまるでベッドね……ベッド!?
みるみる顔が上気して熱くなっていくのが分かった。
……いえいえいえ、なにを考えているのよ、私は。と、とりあえず心を落ち着かせるためになにか食べよう。人が多過ぎて屋台も満足に回れなかったからね。あら、美味しそうな苺のケーキ。あ、テリーヌもあるわ。
「リナ、これを」
「えっ?」
セルゲイは私に向けて手を伸ばす。彼の掌の上には硝子細工の髪飾りがちょこんと乗っていた。カメリアの形をしていて、薄い硝子の花びらが静かに煌めいていた。
「あっ、これは……!」
お祭の露店で売っていたものだ。アレクサンドル連邦の氷菓子みたいで、とっても綺麗で欲しかったのよね。
セルゲイは微かに笑って、
「プレゼント」
「いいの? ありがとう!」と、私は顔を綻ばせた。
「あぁ。リナが物欲しそうにずっと見つめていたからな」
「うっ……。よく分かったわね。買おうか迷ったけど、今日の予算をオーバーしそうだったから諦めたの」
「副大統領から貰った小遣いがあるだろ」
「駄目駄目。あれは旧帝国民の税金だから。いずれは国庫に返却するつもりなの」
「真面目だねぇ。――着けてやるよ。後ろ向いて」
「う、うん……」
私はくるりと振り返る。セルゲイの手が髪に伸びる。軽く頭に触れて、またもや胸が早鐘を打った。
そのときだった。
「リーナ!」
息を切らせたフレデリック様が、私たちの前に現れたのだ。