元皇女なのはヒミツです!

10 炎の道を行く

「おい、セルゲイ! 一体どういうことだっ!?」 

 イーゴリ・ミハイロヴィチ・ストロガノフ公爵令息は、セルゲイより3つ上の、ストロガノフ家三兄弟の次男だ。

 彼はセルゲイと同様に家督を継ぐ権利がなく、得意の魔法剣を活かして元帝国軍――現アレクサンドル連邦軍で活躍していた。
 彼もストロガノフ家の血を濃く引き、それは外見にも如実に現れて、セルゲイに負けず劣らずの美貌の持ち主だった。


「ちょ、ちょっとセルゲイ! どういうことよ!」

 懐かしいイーゴリ公爵令息の顔をみとめるなり、私は大慌てでセルゲイを物陰に連れて行って問い質す。

「なんで、イーゴリ卿がわざわざリーズまで来ているの!? あなた、なにかしたの?」

「あぁ~……」セルゲイは顎に手を当てて首を捻ってから「きっと俺が父上に手紙を送ったからだな」

「手紙っ!?」

「なに今さら驚いてるんだよ。この前言ったじゃないか。平民になって愛する人と結婚してリーズに残るって書いて送った、って」

「あっ! そうだった……!」

 私は目を白黒させて立ち尽くした。
 セルゲイと話がずっと平行線で、すっかり忘れていたわ。彼はもう行動を起こした後だったのだ。

 つまり、今さら抗議をしても、もう遅い!

 全く……なにを勝手なことをやってるのかしら……。あれほど「良く考えて」って念を押したのに、信じられない!

 セルゲイはそんな私の心の中がお見通しと言ったように、

「悪いな。既にもう話は進んでいるんだよ」

 ニヤニヤと意地悪に笑った。
 やっぱり! 分かっていてわざとやったんだわ!

「あのねえ――」

「セルゲイ、こちらのお嬢さんがお前の恋人か?」

「「わっ!!」」

 急な襲来に心臓がドキリと音を立てる。
 なんということかしら。私たちが部屋の隅で揉めている間に、イーゴリ卿は暗殺者みたいに気配を消して接近していたのだ。

 そして彼は素早く私の顔を覗き込んで――、

「こっ………………………………」

 真冬の氷像みたいに、カチンコチンに固まった。



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