元皇女なのはヒミツです!
「セルゲイとその平民の恋人を連れて来ました~!」
イーゴリ卿が明るい声音で言いながら応接間に入る。
そこにはストロガノフ家の面々が待ち受けていた。公爵夫人、嫡男とその妻、その息子と娘、次男――イーゴリ卿の婚約者も座っている。
全員の視線が槍のように私に降り注いだ。品定めをするような沈黙が痛い……。
私は深くフードを被っているので、詳らかな表情まで分からないが、彼らの好奇心や緊張する空気が肌を伝った。
またぞろ不安な気持ちが私を覆う。や、やっぱり、私は場違いじゃないかしら……。超名門のストロガノフ家と家門なしの平民じゃ、ね……。
「セルゲイ、こちらのお嬢さんがあなたの恋人なの?」
とても長く感じた沈黙のあと、公爵夫人がやっと口火を切った。柔らかい声音に敵意は含まれていないようで、私は安堵する。
「なぜ、フードを被っているんだ? 彼女は公爵家に挨拶に来たという意味を知っているのか?」と、今度は長男のマルクス卿が刺々しい声を上げた。
夫人とは打って変わって厳しい声音に思わず縮こまる。彼は昔からお堅い雰囲気でちょっと苦手だったのよね……はぁ、相変わらずだわ。
「まぁまぁまぁ! お楽しみは最後にとっておいたほうがいいじゃないか!」と、呑気なイーゴリ卿。
「父上が来る前に早く取るんだ。無礼だぞ」と、怖いマルクス卿。
「えぇ~?」と、イーゴリ卿がわざとらしく渋ると、マルクス卿が卒然と椅子から立ち上がって、ツカツカと私たちのほうへやって来た。
そして、
――バッ! と、勢いよくフードを剥ぐ。
すると、
「エ…………エカチェリーナ皇女殿下……………………」
弟と同じようにピタリと固まったのだった。