元皇女なのはヒミツです!







「父上、俺の結婚相手の平民のリナさんです」

 混乱が一先ず収まって、重苦しい空気をセルゲイの平然とした声が突き破った。

「さすがに公爵家と平民だと体裁が悪いから、俺は貴族籍を抜けます。彼女の存在を公にはできませんし」とセルゲイ。

「そんな……平民だなんて」公爵夫人が眉尻を下げて「殿下にそのような不自由な生活をさせられないわ」

「卒業後は俺はリーズの魔法騎士団に入るつもりです、母上。リナに苦労を掛けるような真似は誓っていたしません!」

「お前、皇女殿下に対して愛称で呼び捨てだなんて……不敬にも程があるぞ!」とマルクス卿。

「マルクス公爵令息様、私はもう平民なのです。どうぞお気になさらず」

「殿下! そのようなへりくだった態度は直ちにお止めください! 高貴な血の威厳に傷が付きますぞ!」

「リナはもう平民だって言ってるじゃん、兄上」とセルゲイ。

「エカチェリーナ皇女殿下、だろうがっ!!」

「殿下ぁ~、ローズジャムの紅茶飲みます? 宮廷で出されていたものと同じなんですよ。懐かしいでしょう?」とイーゴリ卿。

「茶器も茶菓子も全て最高級――いえ、国宝級のものにしなさい! ストロガノフ家の威信にかけて、皇女殿下に最大限のおもてなしをするのです!」と、公爵夫人がメイドたちにテキパキと指示をする。

 かつてのアレクサンドル帝国の伝統的な甘いお菓子の香りが漂うと、少しだけ安心した。あぁ、本当に祖国に帰って来たのだな……って。

 私たちが和気藹々としたムードになっていると、

「待ちなさい」

 またもや、ストロガノフ公爵の険しい声が場に響いた。ピタリと、その場の者たちの手が止まる。
 公爵閣下は軽くため息をついて、

「まだ話がなにも進んでいない。セルゲイ、一体どのようにしてこのような事態になったのかを、きちんと説明しなさい」

< 365 / 371 >

この作品をシェア

pagetop