元皇女なのはヒミツです!
セルゲイが静かに話し出す。リーズでの私との出会いから、今日にいたるまで。
隣で自分のことを話されると、ちょっとだけ照れくさかった。思えばアレクセイさんの家を一人で出てからいろいろあったなぁ……。
「――と、いうわけです、父上」
セルゲイが話し終えると、ストロガノフ一族からわっと拍手が起こった。女性陣なんてハンカチで涙を拭っている。
「それで、皇女殿下はいつ愚弟のことを好きになったんですか?」と、イーゴリ卿がきらきらと瞳を輝かせながら訊いてきた。
「イーゴリ! 無礼だぞ!」とマルクス卿。
「まぁまぁ、兄上。ここは後世に伝えるためにも知っておいたほうがいいでしょう」
「そうねぇ……歴史書にもしっかりと記述をしなければならない事柄よね」と夫人。
「そっ……それは……その…………」
私はたちまち頬を赤く染めた。
そ、そんなこと恥ずかしくて人前で言えるわけないじゃない!
それに、歴史書って……こんなことまで載せないといけないの!? ご先祖様の歴史には、そんなこと描かれてなかったけどっ!?
「兄上、母上も。いい加減にしてください」と、ほんのり顔を赤らめたセルゲイが制止した。
「なんだよ、セルゲイ。お前も聞きたいんじゃないのかぁ~?」とイーゴリ卿。
「そっ……それは……!?」
セルゲイの雪のような頬が一瞬でビーツみたいに真っ赤に染まる。
「やめんか」
またぞろ威厳のある声音が響いた。
「失礼ですが、殿下。地下牢の救出から首都脱出までの話を、貴方様ご自身からも伺ってもよろしいでしょうか?」
「……分かりました」
私は、地下牢の日々、そしてアレクセイさんが救いに来てくれたこと、彼の家でお世話になって平民になるべく修行をして、そしてリーズへ向かう時までを事細かく話す。
ストロガノフ家の方々は……軽薄なイーゴリ卿までも……真剣に耳を傾けてくれた。
すっかり話し終わると、
「直ちにカトコフ副大統領を呼んで来いっ!!」
ストロガノフ公爵閣下の怒号が室内に響いたのだった。