元皇女なのはヒミツです!




「ねぇ、セルゲイ。私とフレデリック様は婚約解消になったのよね……?」

 放課後、私はとぼとぼと寄宿舎に向かいながらセルゲイに聞いてみた。
 彼は少しの沈黙のあと、

「……あぁ。父上からは皇女の死亡により婚約は正式にお断りしたと伺っている。リナも副大統領から聞いているだろう?」

「えぇ。アレクセイさんからもそう言われたわ。だから、もう諦めたの。でも……」

「自分が皇女だって名乗り出るか?」

 セルゲイまっすぐに私を見つめて問うた。その瞳は私の不安を表しているみたいに、憂いを帯びるように悲しく夕日を映していた。
 私はその黄昏に吸い込まれるように彼を見つめ返した。

「いいえ……」目を伏せて、おもむろに首を横に振る。「アレクセイさんと約束したもの。絶対に正体を明かしてはならないって」

「そうか……。たしかに今、皇女が生存していたと分かったら色々と不味いかもな。新政府に移行して間もないから国内情勢も不安定だ。また内乱が起こる可能性もある」

「そうよね……。そうなると、また国民が苦しむわ。そんなの、私は望まない」

 ぎゅっと胸が痛んだ。革命では多くの国民の命が犠牲になった。自分のせいでまた同じことが起こるなんて絶対に嫌だ。

「済まない」と、出し抜けにセルゲイは私に頭を下げる。

「えっ? なによ、いきなり。頭を上げて!」

 私は彼の肩を掴んでそっと上に持ち上げた。

「俺は全く君の力になれていない。いくら高位貴族の称号を持っていても俺は無力だ」

「そんなことないわ! あなたは今の私の心の支えよ! お友達になってくれたし、セルゲイがいなければきっと今頃グレースたちにやり込められていたわ。いつもありがとう」と言うと、彼は肩を竦めてふっと力なく笑った。

 赤い夕日の光がどことなく寂寥感を運んできた気がした。

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