元皇女なのはヒミツです!
放課後、私たちは空き教室を借りて早速ダンスの特訓を開始した。セルゲイには私が働いている定食屋で今度ご馳走するという条件で相手役になってもらった。
「いい? まずは基本のステップを踏むからしっかり見ておいてね。いくわよ、セルゲイ」
「おう」
私たちは手を取り合って、踊りやすいように密着した。そして、同時に足を踏み出す。
「1、2、3! 1、2、3!」
「うわぁ! 二人とも素敵!」
曲がないので掛け声でリズムを取った。
そういえば、まだ未成年で社交界デビューしていない私と彼が一緒にダンスするなんて初めてだわ。しかしさすがの公爵令息。上手なリードで踊りやすい。
「本当は……今頃俺たちは帝国でこうやって踊っていただろうにな」と、矢庭にセルゲイがぽつりと呟いた。
「えっ!?」
突然の彼の思い掛けない発言に私は驚いてバランスを崩してしまう。
倒れる、と思ったとき、彼の腕がすっと伸びて私を優しく掬ってくれた。彼の綺麗な顔が私の眼前まで迫って来る。
「大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう……」
私はなんだか恥ずかしくなってパッと彼から離れた。
殿方とこんなに密着したのはお父様とお兄様以外で初めてだわ。
そんなことを考えていると、覚えず顔が上気した。もうっ、セルゲイが変なことを言うから……。
「ダンスのときは私に近付かないで!」と、私は眉間に皺を寄せて彼に言った。
「はぁ? 近寄らないでどうやってダンスを踊るんだよ」
「近付かないで!」
「はいはい。じゃ、次はオリヴィアもやってみるか」
「は、はいっ!」