元皇女なのはヒミツです!
「うわぁ……! 素敵……!」
私は思わず感嘆の声を上げる。
それはアメジスト色を基調にしていて、ところどころに可愛らしいフリルやレースの付いたドレスだった。大人っぽい色味だけど、甘いフリルやリボンで弾むような若々しさを感じるデザインだ。そして、この生地。最高級の絹を使用していると一目で分かる。
「ねぇ、これって……エレーナのドレス?」
エレーナはストロガノフ家が経営している超高級ドレスメーカーで、その名は大陸中の王侯貴族たちに轟かせていた。素材にも生地にも物凄く拘っているので、予約は数年待ちで令嬢や婦人たちの垂涎の的だった。
入手困難なエレーナのドレスを一着持っているだけで、本人の評価でさえもガラリと変わるような魔法のドレスだ。
「そうだけど、これは新作の若い令嬢向けのカジュアルドレスなんだ。今回のパーティーに丁度いいと思って」
私は目の前のドレスを矯めつ眇めつ見て、
「カジュアルって……。こんな高級品、正式な夜会でも通用する水準だわ。本格的にカジュアルドレスを展開するつもりなら、もっと質を落としてもいいかもね」
「そうなのか? 女性のドレスのことは正直よく分からないが、母上にそう伝えておくよ」
「ふふっ、ストロガノフ公爵夫人のカジュアルの基準は高過ぎるかもしれないわね。とても美意識の高い方だから」
公爵夫人は帝国ではお洒落な方で有名で、婦人が流行を作り出すことも多々あった。私のお母様も、よく侯爵夫人からアドバイスをもらっていたわ。
「あぁ~、母上は身なりのことは人一倍うるさいからな」と、セルゲイは肩を竦めた。
「そうだったわね」と、私もくすりと笑う。
以前セルゲイが婚約者候補として宮廷に来たときも、公爵夫人が靴の色が気に食わないって馬車を飛ばして追いかけてきたっけ。そのときは夫人とセルゲイと宮廷内で大喧嘩になって、通りかかったお兄様が仲裁に入ったのよね。それで私との面会の時間がギリギリになって、ぜいぜいと息を切らせながらやって来て可笑しかったわ。