元皇女なのはヒミツです!
セルゲイはニヤッと笑って、
「平民が王族の前に出るときは一張羅を着なければ無礼だろ? それに、グレースたちを見返してやろうぜ? な?」と、畳み掛けるように言ってきた。
「で、でも……私たちは婚約者じゃないし、ストロガノフ家の令息に変な噂が立つのは――そうだわっ!」
その瞬間、頭の中にある名案が閃いた。
「じゃあ、セルゲイ。ドレスはプレゼントじゃなくて、パーティーの日だけ貸してくれない?」
「貸す?」
「そう。私がエレーナの広告塔になるのよ! 平民でも着れば貴族に変身できるドレス、今度カジュアルドレスも展開しますよ、って宣伝するの。それだったら私が会場で分不相応なドレスを着ていてもおかしくないわ」
「なるほどな……」と、セルゲイは考える素振りを見せた。
よし、ここは一気に説得させるのよ。
「マーサさんも言っていたわ! 庶民は貸し借りなし、って。互いに利益が及ぶように助け合うのが平民の生きる道なのよ!」
マーサさんは私が働いている庶民向けの定食屋の女将さんだ。とっても明るくて豪快な人で、彼女からリーズ王国の庶民の生き方を沢山教わった。
彼女の話を聞いていると、どうやらアレクセイさんたちは庶民の間でも上流階級に属していたらしい。たしかに家には難しい本がいっぱいあったし、食器や家具も欠けたものがなくていつもピカピカだった。同じ平民でも暮らしぶりは個人差があるみたいね。
私もマーサさんみたいにいつも前向きで明るく生きていくのが目標だ。だって、笑っていたほうが楽しいでしょう?
「分かった」セルゲイは頷いた。「マーサさんには敵わないからな」
「本当? ありがとう!」
こうして、ドレスの問題は解決した。
私はグレースたちに負けたくなくてダンスを踊ることに躍起になっていたのだけど、フレデリック様も参加されるという事実を改めて実感して、胸が高鳴った。