元皇女なのはヒミツです!
「リナ、料理の腕が上がったね」
私が作ったじゃがいものスープを味見してターニャさんがニカッと笑った。
「本当に?」と、私も思わず顔が綻ぶ。
「もちろん! 一年前はスミレの砂糖漬けしか作られなかった娘とは思えないよ」
「そっ、そのことはもう言わないでよ!」
恥ずかしい過去を思い出して私は顔を赤らめた。
一年前にアレクセイさんに保護されて、彼の奥様のターニャさんに家事を教わることになったのだけど、料理はできるのかと問われたときに自信満々に「スミレの砂糖漬けを作ることができるわ!」と答えたのだ。でも、あれはいわゆる「料理」とは言わないのよね。あのときの自分を叱ってあげたいわ……。
「あはは。ま、一年でこれだけ成長したら大したもんだ」
「ありがとう。ね、もう私も立派な平民になったわよね?」
「う~ん、それはどうかなぁ~?」
「えぇーっ!」
「さ、もうすぐアレクセイが帰って来るから急ごう」
「はぁ~い!」
ターニャさんは料理の最終調整をして、私は食卓の準備を始める。もう慣れた手付きでテーブルクロスに食器と磨き上げられたカトラリーを並べる。
夕食の時間は一番の楽しみだ。
温かい料理を皆で囲んで他愛もないお喋りをしながら食べるのは楽しい。自分の作った料理を美味しいって食べて貰えるのは嬉しい。こんなに幸せを感じることって中々ない。
食事は宮廷生活の頃よりは粗末なものだけど、全然さもしい気持ちにはならなかった。つまるところ、料理の豪華さよりも、その料理を誰が作って誰と一緒に食べるかのほうが重要なのかもしれない。