元皇女なのはヒミツです!
出し抜けに聞きたくもない言葉が耳に入ってきた。思わず顔をしかめる。
そう……あの令嬢がフレデリック様の次の――……。
彼女は艷やかな黒髪に深い赤紫の瞳が印象的だった。人形みたいにとっても綺麗な方。所作も洗練としていて、王太子の婚約者にぴったりだわ。
でも、どこか冷淡な雰囲気を感じるのは私が彼女に嫉妬してるからかもしれない。
フレデリック様の隣は私の場所なのに、なんであんな子が……そんな醜い感情がみるみる全身を支配していくのが分かった。
私は邪悪な思考を取り払うように頭を振る。
駄目よ。
もう私はエカチェリーナではないのだから、よこしまな考えはしちゃいけないわ。妬むより、元婚約者の幸せを祈るのよ。それがマーサさんから教わった前向きな生き方だから。
「!」
気が付くと、震える私の手をセルゲイがぎゅっと握ってくれていた。彼の体温のぬくもりに安堵して少しだけ楽になった気がした。
「辛ければ一度外へ出ようか?」と、彼は囁く。
私は小さく頭を振って、
「大丈夫。ありがとう」
「そうか」
生徒会長と副会長のダンスは優美で非の打ち所のない見事なものだった。