元皇女なのはヒミツです!
「はい! これでよし!」
汚れの浄化はフレデリック様自らが行ってくれた。
彼は光魔法の使い手である。光魔法は攻撃も回復もできる万能魔法だ。
一国の王太子が身分の低い者の治療だなんて恐れ多いと最初は辞退したんだけど、生徒会の不手際で嫌な思いをさせてしまったお詫びに是非浄化させてくれと懇願されて、私は仕方なく頷いた。
ドレスの赤い染みは綺麗さっぱりなくなって、もとの美しい輝きが戻った。ジュースの汚れで赤茶けた私の肌も明るくなる。
「あ、ありがとうございます! 王太子殿下ご自身に治癒をしていただけるとは、至極光栄の極みでございます!」と、私は深々と頭を下げた。
「ははっ、大袈裟だよ。そんなに畏まらないで? 僕らは同じ学園の生徒なんだから。――そうだ、君の名前をまだ聞いていなかったね。僕はフレデリック・リーズだ」
「私は……」
一瞬、言葉に詰まった。思わず「エカチェリーナ」と口から出そうになる。
フレデリック様、私がエカチェリーナですわ。今、あなたの目の前にいるこの私が、エカチェリーナ・ニコラエヴナ・アレクサンドルです。ずっとあなたにお会いしたかった。あなたから頂いたお手紙は今も私の一番の宝物ですわ。そして、私はあなたを――……。
……なんて言葉はおくびにも出さない。