元皇女なのはヒミツです!
私は再びフレデリック様にエスコートされて、ホールへと出た。そして二人で中央まで歩いて行く。
またもやアーチが出来た。貴族たちの冷ややかな視線は、もう気にならなかった。前に進むに連れて胸が高鳴るのを感じた。
「よろしくね」
「よろしくお願いいたします」
私たちは一礼する。
両手を取り合い、身体を近付けた。
指揮者がタクトを振り上げる。
美しい音の波紋がホール中に広がった。
「そういえば、君はアレクサンドル人だったね?」
「えぇ。先日の旅行はいかがでしたか?」
「とても感動したよ。事前に聞いていた観光名所を回ったんだけど、どれも良かった。綺麗なところだね」
「あの頃の季節は雪解けで道がドロドロだったでしょう?」
「ははっ、それも覚悟していたんだけど、歩くのに苦労したよ。想像以上だ」
私たちは踊りながらアレクサンドル連邦国のことをたくさん話した。
フレデリック様は旅行では私が手紙で紹介した場所を中心に見て回ってくださったようだった。私は手紙のことを悟られないように慎重に彼と話をした。
それは、言葉にできないくらいの素敵な時間だった。
彼は約束通りにデビュタントで一緒に踊ってくれた。もう私はエカチェリーナではないけれど。
音楽はいつかは終わる。
魔法は解けて、王族と平民は別れの挨拶をする。
でも、平民は忘れない。今宵のことはずっと胸の中の宝物。