元皇女なのはヒミツです!
「ん? あぁ……まぁ、公爵領でポツポツ反乱はあったが――」
「じゃあ、痣だらけで顔も分からないくらいの父親が両手両脚を切り落とされて民衆の前で首を落とされたことは? 母親が毎日何十人もの男の相手をさせられて気が狂って笑いながら首を吊ったことは? 兄がジビエみたいに口から串刺しにされて生きたまま丸焼きにされたことは? 忘れ去られたように地下牢に一ヶ月近く放置されて、漏れてくる雨水と這っている虫で飢えを凌いだことは?」
「リナ……君は…………」
セルゲイは目を見張って絶句した。
私はニコリと笑って、
「そんなことに比べたらグレースたちの嫌がらせなんて子供の遊びみたいなものだわよ。だから、心配しないでね?」
「皇族は最期は残酷な目に合ったとは聞いたが……その…………」
「昔のことよ。もう終わったことだから。変な話をしてごめんね」
「いや……俺のほうこそ辛い話をさせて悪い……」
私たちは寄宿舎まで無言で歩いた。
あの頃の出来事は今では小説でも読んでいるみたいに別の世界の話のように感じている。でも、たまに悪夢となって現れる。そうなると夜中に何度も飛び起きて、翌日は寝不足になるのがきつかった。
帝国民のことは恨んではいない。私たち皇族は国の代表者なのだから責任を取らなければならないのは当然だと思っているから。きっと国民がひもじい思いをしているときも、のうのうと贅沢な暮らしをしてきた報いだ。
私は残りの人生を旧帝国民に捧げるべきなのだろうか。
学園を卒業したら、連邦に戻って皇女として罪を償ったほうが良いのだろうか。