元皇女なのはヒミツです!
「フ、フローレンス様!」と、ジェシカとデイジーは慌ててカーテシーをする。やや遅れてグレースも静かに頭を下げた。
「ご機嫌よう。あなたたちもこちらのお店に?」と、フローレンスはニッコリと微笑んだ。
「は、はい! べ、勉強になるかと思って。ね、グレース?」
「えぇ」
「そう。それは素晴らしいわ。わたくしも後学のためにこちらにはよく通っているのよ」
「そうなのですね! さすがですわぁ!」
「ご優秀なのは理由があるのですね!」
「うふふ、ありがとう。なにか興味深いものを見つけたら教えてちょうだいね?」
「「はいっ!」」
フローレンスはまるで舞踏会で踊るような優雅な足取りで店の中に入って行った。
「ちょっとグレース! 眉間に皺が寄っているわよ」
「そうよ。フローレンス様に失礼よ」
「ちゃんと挨拶はしたわよ」と、グレースはプイッと目をそらせて先に歩き始めた。二人は慌てて彼女を追いかける。
「なに怒ってるのよ」
「だって……」グレースはムッと口を尖らせた。「あの女が王太子殿下の次の婚約者になるかもしれないんでしょう? 殿下にはエカチェリーナ様がいらっしゃるのに、許せないわ」
ジェシカとデイジーは困ったように顔を見合わせた。
グレースは向かっ腹を立てながら早足で先を進む。
気に食わない。
特待生の平民も、平民を庇い立てする帝国人も、エカチェリーナ様から王太子の婚約者の座を奪おうとする侯爵令嬢も。