元皇女なのはヒミツです!
「あら、楽しそうなお話ですわね」
「フローレンス様!」
「フローレンス嬢か……」
振り返ると、フローレンス侯爵令嬢が穏やかな笑みを浮かべてこっちに近付いてきた。どうやら彼女も代表に選ばれたらしい。
彼女は今日も非の打ち所がないほどに優美で、本当に淑女の鑑のような方だわ。……でも、時折り感じる氷のような冷たさはなんだろうか。
「わたくしも今回は優勝は譲れませんわ。国王陛下に是非叶えていただきたい大事なお願いがありますので」と、侯爵令嬢は意味ありげにフレデリック様に向かって微笑んだ。
「そうか」
フレデリック様の口調が少し落ちた気がした。お二人はあまり仲がよろしくないのかしら? ダンスのときは悔しいくらいに息ぴったりだったのに……。
私はまたぞろ湧いてきた黒い考えを急いで奥に閉じ込めた。
いえ、二人が仲が良くても悪くても平民の私には関係のないことだわ。仮に二人が婚約したとしても、無関係の私はとやかく言える立場ではない。
侯爵令嬢は今度は私のほうを向いて、
「リナさん……でしたわね? 本日はお互いに頑張りましょうね」
「はい。どうぞよろしくお願いいたします、フローレンス様」
いけないと思いつつも、私は彼女とまともに目を合わせられなかった。
こうして、それぞれの想いを秘めて、狩り大会は幕を開けた。