元皇女なのはヒミツです!
「駄目だよ、リナ」
アレクセイさんが険しい顔で私を見た。
「えっ……?」
「君はリーズ王国へ行きたいと思っているんだろう? それは駄目だ」
「なんで――」
「危険だからだ。僕をはじめ新政府には遠方のリーズ王国には伝手がないので君は単身で乗り込むことになる。貴族には頼めないしね。誤解や憶測を招きかねないので政府関係者の護衛もなしだ。生活能力のない君がどうやって一人で生きていく? それに……君が辛いと思うよ」
「私は一人でもやっていけるわ! だってターニャさんから平民の生き方をたくさん教わったもの! 辛くなんかないっ!」
「リーズ王国は君の元婚約者の国だ。きっと惨めな思いをすることがある」
「私は平気よ!」
「フレデリック王太子に新しい婚約者ができたとしても? 王太子が結婚したとしても? 世継ぎが生まれたと――」
「そのへんにしときな、アレクセイ」と、ターニャさんがアレクセイさんを睨み付けた。
「ターニャ、僕は――」
「あたしはリナに賛成だ。っていうか、あんたの親戚にこの子を預けるほうがよっぽど危険だと思うけどねぇ。あたしが暗殺者だったらリナの居場所を突き止めるにまずは政府関係者から洗うけど?」
「そ、それは……」
「それに、けじめをつけるためにも一度リーズ王国へ行っておいたほうがいいと思う。それがリナを傷付けることになっても、この子が前へ進むために通らないといけない道なんだよ」
「だが……」
「アレクセイさん、お願い! 私は傷付いたって構わないわ! 一度でいいからリーズ王国を見てみたいの! だから、お願いしますっ!」
私は地面に付くくらい深々と頭を下げた。
「あたしからも頼むよ」と、ターニャさんも一緒に頭を下げてくれた。
しばらく水を打ったように静まり返って、ややあってアレクセイさんの長いため息だけが部屋に響いた。
「……分かった。確かにターニャの言う通り、遠いぶん隣国よりか安全かもしれない」
「本当っ!? ありがとう、アレクセイさんっ!」