香澄くん、ごちそうさま〜吸血鬼の幼なじみと友達以上恋人未満?〜
「いつも香澄に血、ありがとね」

「いえっ! 別に全然大したことしてないですし」

授乳中(授血中?)の楓さんに声をかけられ、なんとなく姿勢を正す。

「そんなことないわよ。貧血とか、具合悪くなったりも大丈夫?」

「大丈夫です!」

たまにくらくらしちゃったりもするけど、大丈夫は大丈夫だから嘘じゃない。

「まあ、香澄が吸うのも後数年のことだから、よろしくね」

「えっ! あと、数年‥‥?」

楓さんの口から飛び出した言葉に目を丸くする。

香澄くんは吸血鬼だから、ずっと血が必要じゃないの?

「もしかして聞いてない?」

私は頷く。

だから、ずっと私が必要だと思ってた。
必要とされるんだと思ってた。
でも、私はあと数年で必要なくなるの‥‥?

「香澄ってば、説明してなかったの‥‥ごめんね。うちの親族は吸血鬼ばっかで夫が何百年ぶりかの人間だし、香澄って吸血鬼の常識と人間の常識の違いがわかってないとこあって‥‥」

香澄くんは私も当然知ってるんだと思ってるんだ。
期間限定のことだから、私が血をあげてるって思ってる?
期間限定のことだから、私に優しくしてくれてるの?

おいしかったはずのハーブティーの味が、急にわからなくなってしまった。

「吸血鬼が人間の血を必要とするの、成長期の十代のうちだけなのよ。小さい頃はこんな風に吸血鬼の血だし、大人になれば大きな病気や怪我したときぐらいだけで平気だから」

大人になるまで‥‥

今は家も近くだし一緒の学校に通えてるけど、学年のなかでも上位の香澄くんと中間ぐらいの私とじゃ、きっと進路は違ってしまう。
血をあげるっていうトクベツもなくなって、クラスメイトでもないただの幼なじみに戻って、それでも私は香澄くんのそばにいられる?
香澄くんと一緒にいられる未来が見えない。

「まあ、うちの婆様みたいに不老不死を謳歌しようっていうんなら血を飲み続ける必要があるけど、今の時代、そういう生き方は流行んないしね」

楓さんが話す声も水の底から聞こえるみたいにどこか遠い。

「ごちそうさまかな?」

紅葉ちゃんが楓さんの指から口を離す。
楓さんの指は赤くなっていたけど、もう傷はないように見えた。

私が香澄くんに血を吸われた後も同じ。
ちゃんと刺されてるような感覚があるのに、香澄くんが口を離すと吸われた跡は赤くなってるぐらいで傷にはなってない。
虫刺されと言っていつも誤魔化せてしまう。

コウモリに変身したりは出来ないよって言ってたけど、やっぱり吸血鬼は人間じゃない。

「あらっ、紅葉!?」

お腹がいっぱいになった紅葉ちゃんは、今度はぎゅっと顔に力が入って真っ赤になっている。
これは‥‥

「ごめんなさい、さすがにオムツは向こうで変えてくるわ〜」

楓さんは紅葉ちゃんを抱えて、リビングの隣の部屋に行ってしまった。
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