ひまわり畑には恋する乙女が住んでいる

第一話 ひまわり畑の管理人

「っはあ〜、やっと着いた」

都心から約6時間ずっと座りっぱなしの体を大きく伸ばし、一つあくびをすると古びた駅を出た。

「ここも久しぶりだな」

数年ぶりに見た、地元の景色は何一つ変わっておらず、ほっとする。

一面に広がる田んぼ、高い建物があまりないせいか広く高く見える青空。

しばらく、その景色を堪能していると、向かい側から白い軽トラックが向かってくる。

「おーい、照!」

顔を出し、大きく手を振る人物を見て嬉しくなり、こちらも大きく手を振りかえした。

「じいちゃーん!」

俺のすぐ目の前に軽トラックを止め出てきたじいちゃんは、すごい勢いで抱きしめてきた。

「ちょ、じいちゃん苦しい」

「よぉ帰ってきたなぁ、無事で良かった」

そう言うじいちゃんの声は少し涙ぐんでいた。

「お前が、事故に遭ったと聞いた時は肝が冷えた」

俺を離したじいちゃんは勢いよく背中を叩くと、そう言い笑った。

今から3年前、珍しく都心に買い物に出でいた俺は交差点での事故に巻き込まれて、大怪我を負った。

運のいいことに外傷は少なかったが、頭を強く打ったのか、なかなか目覚めず半年前にやっと意識が戻ったのだ。

「ごめん、じいちゃん。ありがとう」

沢山の人に心配をかけてしまった。

なにぶん、ここは田舎なので交流も広く、見知らぬ人などほぼいない。

両親は意識が戻ったその日に泣かれた。

そんな2人を見て心配をかけてしまったことを申し訳なくなると同時に、こんなにも愛されていたという事実になんだか心が温かくなったのが今でも印象に残っている。

「まぁ、いい。今回はゆっくり体を休めるといい、さ、乗れ」

そうにっこり笑ってくれるじいちゃんに俺はお礼を言いながら、軽トラックに乗り込んだ。

そう、俺はここにこれからずっといる訳ではない。

俺が入院している間、ここから通うには遠すぎるという理由で都心に引っ越してきた両親達。

それを踏まえ、俺は都心の方に就職先を見つけ、今後はそこを拠点とすることにしたのだ。

ここへは、療養も兼ねて最後のお別れをしにきた。

仕事が忙しくなればなかなかここへくることも叶わないだろうから。

「シートベルトはしたか?」

「大丈夫だよ」

「それじゃ行くか」

安定性のない砂利道を通る軽トラックはかなり揺れる。

7月の太陽は眩しく、少し生ぬるい風が吹き抜けた。
< 2 / 4 >

この作品をシェア

pagetop