言葉選びって、大事。
 言葉を被せてまで食い気味に言って来るダイキに呑まれていると、彼は真剣な目のままで頬を赤くさせていた。

「な、何?」

「彼女になれよなんてもう言わない。その代わり……」

「……その代わり?」

 中々続きを言わないダイキを促すと、何度か口を開け閉めし始めた。
 金魚かあんたは。

「そっの、かわり!」

「う、うん」

 もう顔全体が真っ赤で、本当に金魚みたいだった。
 これ以上は酸欠になってしまうんじゃないかな?
 流石に不安になった頃、ダイキはか細い声で、でもしっかり聞こえるように言葉を口にした。

「代わりに、毎日だってこう言うから」

「?」

「……コトハの彼氏に、なりたいって」

「え……」

 トコン、と。
 小さく何かを叩く音が聞こえた気がする。

「あいつのせいで、コトハ泣いてたじゃんか。俺なら泣かせない。だから、その……俺はコトハの彼氏になりたい」

「っ!」

 トコン、トコンと、今度は続けざまに鳴り響く。
 “なれよ”と言われていたときは何とも思わなかったのに、急に“なりたい”なんて殊勝な言い方されたら……。

「俺じゃ、ダメか?」

 急に、男に見えちゃうじゃない。

 トコン、トコン、トコン。
 その音は、胸の内側から聞こえる。
 どんどん早くなっていくのが分かったけれど、私はダイキから顔をそらすことでその音にも知らんぷりした。
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