スノーフレークに憧れて
第3話
よく晴れた日。
今日もいつも通りに学校に通っていた。
いつも通りの教室のはずが、緊張する。
まゆみの席には誰も座っていない。
休みなんだろう。
今まで、教室の掲示板に貼られている予定表のように気にしたことないクラスメイト。
ドラマでいうところのエキストラ並みのキャラクターだったのに。
視線の先には龍弥がいる。
無言の圧力を感じてから、話はしなくとも妙に気になってしまった。
目があいつを無意識に追っている。
危なくメガネ越しに目が合いそうになって避けた。
相変わらず、誰とも何も話さない。
人に興味がないらしい。
授業中に先生から指名されれば普通に小さい声だが、解答する。
答えは合っている。
間違うことは少ない。
菜穂は教室の廊下側の後ろの席から窓側に座る龍弥の後ろ姿を見る。
長い黒髪のが風で靡く。女子みたい。
メガネはレンズ分厚め。
秋葉原でアイドルでも追っかけていそうな雰囲気。
光るペンを持ってオタ芸もできますというイメージをすごく持つ立ち姿。
それは、そちら側に寄せてその格好をしているのか。
普通に過ごしていたら、絶対関わりたく
ない。
でも、なんで気になるのか、自分でも不思議だった。
他にも男子は存在する。
#杉本 政伸__すぎもとまさのぶ__#。
髪は短髪だが、メガネでオタクっぽいやつ。でも、その男子は友達普通にいるし、1人では過ごしてない。龍弥とは話したことを見たことはない。キャラが違うのか。
カースト制上位っぽい。
かなりイケイケの男子も、もちろんいる。
#石田 紘也__いしだこうや__#。
椅子の動かし方が乱暴で、がたがたうるさいし、授業中も先生に話しかける。
髪型は金髪に近い。短髪。
風紀委員指導日には、なぜか1日だけ黒く染めてくる。意外と真面目なのかもしれない。
ピアスは何個も開けてチャラチャラしてる。
紘也が、いつだか、龍弥にちょっかいをかけようとしたら、目で殺されかけたらしい。
睨みつけられただけなのに威力抜群のようだ。
それくらい、龍弥はクラスメイトとは、話さない。
カースト制にはどこにも属してはいない雰囲気だ。
他にも男子はクラスにはいるが、龍弥に近い席の男子はその2人だった。
*
また別なの日の昼休み、窓際にふと立って外を覗いてみた。外にあるベンチに龍弥が1人座って、たまたま飛んできた鳩にお菓子をあげているのを見た。
食べられるものなのか、確認する鳩は疑り深い。
あいつが鳩の世話をするのかと思うと少し興味が湧いた。じっと見ていた。
結局、鳩は食べずにチョンチョンとジャンプして、遠くにいる。
飛ぼうとはしない。
龍弥はしつこく、お菓子を食べさせたかったのか、近くにまでよってあげようとしたら、案の定、飛び立って行った。
(バカだ、あいつ…。鳩に餌あげたら、学校に住み着くじゃん。)
窓にある手すりに捕まって、外をずっと見ていたら、まゆみに声をかけられる。
「菜穂~、何してんの?」
「え、何か、外天気いいなぁって…。」
「ふーん。確かに。誰かいたの?気になる人でもいんのかなぁ。」
額に手をつけて探る。
「別にぃ。私、この学校に彼氏なんて求めてないしぃ。作るなら、他校の人がいいなぁ。」
振り返って、教室内に体を向けた。
そのまま、まゆみは外を見続ける。
「そうなの?てっきり、菜穂はこの学校で相手を探してるんだと思っていたよ。入学したての頃、頑張ってた感あったから…。」
「…それは、黒歴史と言って。」
「黒くないって。ただの失敗でしょう。あ、あれ。白狼じゃん。あいつ、真夏になってもあの髪型すんのかな。暑いよね。かなり。」
また、菜穂の胸に矢が刺さる。
まゆみの言葉にはグサッとささる。
菜穂は、入学してすぐに高校デビューしようとイメチェンで髪色を脱色に挑戦してみたり、慣れないメイクをしたが、このまゆみに指摘しまくられて、今の普通の女子高生のような格好になった。
顔のイメージにそぐわない格好をしていたため、みんな誰も声をかけてくれなかった。
女子も男子もさらりと交わす。唯一、見てくれたのはまゆみだった。
「だっさ!」
入学式の初対面でその言葉言う?!と思ったけれど、それは1番自分のことを見てくれていたと納得した。
「え、どこらへん?」
「あ、全部だよ。」
「嘘。」
「ほ・ん・と。」
まゆみはそう言いながらも、髪の色やメイクのやり方を伝授してくれた。
初めて友達ができた瞬間だった。
それまでは、気持ち悪がられて、誰も振り向いてくれないし、話しかけてもくれない。
まゆみは声をかけてくれた。
今では何でも話せる無二の親友だ。
時々、グサッとくる言葉には胸に矢が刺さる。
痛い。
辛い。
でも、菜穂にはそれが刺激となり、元気の源とも言える。
1番に自分のことを言ってくれる。
むしろ、感謝している。
「だよね。そういや、白狼ってずっと長袖だよね。確か、体育の時も半袖見たことない。体を隠したい何かをしているのかな。」
「ただの寒がりじゃないの?」
「まさか。」
「筋肉ムキムキとか?」
「それなら、逆に見せるっしょ。」
「うん。そうだ。」
「刺青?!ヤクザ? こわっ。」
「ちゃうべ。高校生だよ。それ言うなら、今の言葉でタトゥーね。シールタイプもあるからわざわざ掘らなくてもオシャレは楽しめるよ。」
「ふーん。」
「菜穂。ずいぶん、白狼のことになると話が盛り上がるんね。興味あるん?」
「全然。絶対ないよ。あんなやつ。オタク嫌いだし。」
「へぇ。近くにいる杉本の前でよく言えるよねぇ。」
「おい!俺はオタクじゃねぇよ。」
「は?」
「ただアニメやゲームが好きなだけだって。」
「杉本ぉ。それがオタクって言うんだよ。」
「嘘、まじで。知らんかったわ。…って、誰だって、ゲームもするしアニメも見るだろ。ひとくくりにすんなよな。秋葉原とかコミケとかに通う人たちだろ?俺、ああいうのは全然興味ないし。本当、ウチで見るだけで楽しめるから。」
「もう、杉本の話いい。飽きた。」
「は?急に冷めるのかよ。」
「私はねぇ。どっちかっていうと、#木村 悠仁__きむらひさひと__#みたいなタイプなんだわ。優等生だし、生徒会に入っているけど、外見もきちんとしてるじゃん。人当たりもいいしさ。菜穂はどう思う?」
木村悠仁は、クラスメイトの学級委員を務めている。人をまとめるのが得意で優等生。誰にでも優しい。先生たちからも信頼が厚い。
悠仁は、龍弥にも怖気づくことなく話しかける。相手の対応としては頷くことや首をふることしかされないが、悠仁の言うことは真面目に聞くらしい。
「私も、いいと思うよ。優しいもんね。恋愛対象ではないから大丈夫。」
「遠慮してる?」
「違うって言ってんじゃん。他校がいいって言ったっしょ。恥ずかしいの。先生や友達やクラスメイトに彼氏彼女ってバレるのが。だから、絶対作らないから。気にしないで。」
「ふーん。そうなんだ。原因はそこか。恥ずかしがり屋なんね。」
菜穂は、本当は悠仁のことは、多少いいなと思っていたが、まゆみが気になると言っているのだから、そこは譲らないと友情にヒビが入ることを恐れた。
チャイムが鳴った。席に戻った。
まゆみには、龍弥のことをオタクだから嫌いと言っていたけれど、好きではなくでも嫌いと言うだけで多少たりともその人のことを考えている。執着があるのかもしれない。
物でも同じなのかもしれない。
ピーマン嫌いと言うと、ピーマン料理以外でと言うとあえて、その料理を思い出す。
何も考えなければ、アイデアも思い浮かばないのに、嫌いな人のことを少しでも頭の中に映し出している。
嫌だと言えば言うほど、あいつが頭から消えない。いらないはずなのに。
無性に腹が立ってくる。
授業中にも関わらず、菜穂は龍弥の後ろを睨みづつけた。
視線を感じた龍弥は鳥肌が立つ。ブルっと震えて、姿勢を正した。
(父さんと母さんでも背中に来たんかな。)
世界史の授業が淡々と進む。
***
今日もフットサルをやるぞと張り切って、バイクを駐車場にとめてヘルメットを外した。耳から垂れるピアスのかざり、長い髪を無い頭にワックスでセットした銀髪を整えた。
メガネをつけていないから、視界はスッキリしている。
深呼吸をして、ベンチに荷物を置いて、靴を履き替えた。
「こんばんは。龍弥くん。」
「あれ、雪田さん。お久しぶりですね。登録してたの気づかなくてすいません。」
「いいの、いいの。急に今日、決めたから。龍弥くんに紹介したくて、娘、連れてきてさ。ストレス溜まっているって言うからやらせようと思って。ほら、菜穂、自己紹介して。」
「あ、はじめまして。父がお世話になってます。雪田 菜穂です。」
制服を着替えて、スポーツウェアを着てきた菜穂は恥ずかしそうに言う。
「はじめまして。将志さんといつもここでフットサルやらせてもらってます。伊藤龍弥です。菜穂さんでしたっけ?フットサルは初めて?」
(なんで、こいつに愛想ふりまかなきゃいけないんだよ。 )
心の気持ちと話す言葉が全く違う龍弥。
(何、この人、コミュ力超高め? 初対面でめっちゃ喋るし、何、この髪型。銀髪?!ピアス開け放題だし。カラコン入れてるし、こんな人、どこの高校よ
。よくこんな人と、お父さんフットサルをやれるわね。)
「はぁ、まるっきり、はじめてですけど…。」
「よし、じゃぁ、俺が教えるから、こっち来て。」
(ちくしょー。お父さんいる手前、自然の流れで教えないと空気悪くするし、同い年は俺しかいないじゃん。あー、どうして、ここにクラスメイトがいるんだよ!?)
龍弥は菜穂の手を引っ張って、連れて行く。心の声と建前が葛藤する。
「龍弥くん、ごめんね。菜穂、覚えるの遅いと思うから。基礎から丁寧に教えてやって~。」
将志は言うが、龍弥はその言葉に反応して教え方が徐々に鬼コーチと化していく。
「菜穂さん、良いっすか。聞いてください。フットサルは、サッカーと違って5人制です。そのうち、フィールドチームが4人、キーパー1人で構成されます。ボールを蹴るって動作は同じですけど、コートのサイズは小さいですし、時間は公式だと20分を2回です。……ーーー
」
龍弥は事細かにフットサルのルールを説明した。
「あとは、ネットやYouTube見て、独学で勉強してください。」
最初はそんなふうに優しく教えていた龍弥は、数分もすると…。
「おい、菜穂!バカ、お前、こっちパスよこせって言っただろ?!」
早速、試合が始まっていた。
今日の集められたメンバーで教えながら、だんだんと言葉が雑になってくる。
名前も呼び捨てになっていた。
「はぁ?!そんな、今日来て、すぐできるわけないでしょーーーが!」
菜穂は叫びつつも、ゴールにボールを蹴ってシュートを決めた。
「…やればできんじゃん。」
「ふん、わたしだってこんなのかんたん…。」
菜穂は何もないところで豪快に転んだ。
「どんくさ。」
「いたたた…。」
「ほら。」
龍弥は手を貸して起こした。
「あ、ありがとう。」
龍弥は起き上がった菜穂の耳元で
「お前、もう、来なくていいよ。」
(俺の素性がバレる前に消えてくれ。)
そう言って、立ち去った。
歩きながら、着ていたシャツで汗を拭く。
20分の2回きっちりゲームして、汗をびっしょりかいた。思っていたより教えながらはハードだった。
教えるのが面倒になったんだろうと思った菜穂は、ペロッと舌を出して、
(あんたなんかに教えられたくないし、不良みたいな顔してふざけんなつぅーの。こっちから願い下げだわ。)
ベンチに座って、水分補給にグビグビとお茶を飲む。大量に汗をかいていた。ふわふわタオルが癒しだった。
龍弥は、むちゃくちゃに
頭をかきむしる。
(あーーーー、調子が狂う。学校のやつには絶対に会いたくなかった……。)
ラウンジの壁にダンと拳を叩きつけた。
愛想を振り撒くのも限界を感じた龍弥は、つい、本音が出た。
遠くから2人を見ていた菜穂の父、将志は何となく、じゃれ合ってて仲が良いなぁと捉えられたようで、また菜穂をここに連れてこようと鼻歌を歌っていた。
飛んだ勘違いしている父だった。
龍弥は明日の学校でどんな顔して過ごせばいいのか変に緊張していた。
今日もいつも通りに学校に通っていた。
いつも通りの教室のはずが、緊張する。
まゆみの席には誰も座っていない。
休みなんだろう。
今まで、教室の掲示板に貼られている予定表のように気にしたことないクラスメイト。
ドラマでいうところのエキストラ並みのキャラクターだったのに。
視線の先には龍弥がいる。
無言の圧力を感じてから、話はしなくとも妙に気になってしまった。
目があいつを無意識に追っている。
危なくメガネ越しに目が合いそうになって避けた。
相変わらず、誰とも何も話さない。
人に興味がないらしい。
授業中に先生から指名されれば普通に小さい声だが、解答する。
答えは合っている。
間違うことは少ない。
菜穂は教室の廊下側の後ろの席から窓側に座る龍弥の後ろ姿を見る。
長い黒髪のが風で靡く。女子みたい。
メガネはレンズ分厚め。
秋葉原でアイドルでも追っかけていそうな雰囲気。
光るペンを持ってオタ芸もできますというイメージをすごく持つ立ち姿。
それは、そちら側に寄せてその格好をしているのか。
普通に過ごしていたら、絶対関わりたく
ない。
でも、なんで気になるのか、自分でも不思議だった。
他にも男子は存在する。
#杉本 政伸__すぎもとまさのぶ__#。
髪は短髪だが、メガネでオタクっぽいやつ。でも、その男子は友達普通にいるし、1人では過ごしてない。龍弥とは話したことを見たことはない。キャラが違うのか。
カースト制上位っぽい。
かなりイケイケの男子も、もちろんいる。
#石田 紘也__いしだこうや__#。
椅子の動かし方が乱暴で、がたがたうるさいし、授業中も先生に話しかける。
髪型は金髪に近い。短髪。
風紀委員指導日には、なぜか1日だけ黒く染めてくる。意外と真面目なのかもしれない。
ピアスは何個も開けてチャラチャラしてる。
紘也が、いつだか、龍弥にちょっかいをかけようとしたら、目で殺されかけたらしい。
睨みつけられただけなのに威力抜群のようだ。
それくらい、龍弥はクラスメイトとは、話さない。
カースト制にはどこにも属してはいない雰囲気だ。
他にも男子はクラスにはいるが、龍弥に近い席の男子はその2人だった。
*
また別なの日の昼休み、窓際にふと立って外を覗いてみた。外にあるベンチに龍弥が1人座って、たまたま飛んできた鳩にお菓子をあげているのを見た。
食べられるものなのか、確認する鳩は疑り深い。
あいつが鳩の世話をするのかと思うと少し興味が湧いた。じっと見ていた。
結局、鳩は食べずにチョンチョンとジャンプして、遠くにいる。
飛ぼうとはしない。
龍弥はしつこく、お菓子を食べさせたかったのか、近くにまでよってあげようとしたら、案の定、飛び立って行った。
(バカだ、あいつ…。鳩に餌あげたら、学校に住み着くじゃん。)
窓にある手すりに捕まって、外をずっと見ていたら、まゆみに声をかけられる。
「菜穂~、何してんの?」
「え、何か、外天気いいなぁって…。」
「ふーん。確かに。誰かいたの?気になる人でもいんのかなぁ。」
額に手をつけて探る。
「別にぃ。私、この学校に彼氏なんて求めてないしぃ。作るなら、他校の人がいいなぁ。」
振り返って、教室内に体を向けた。
そのまま、まゆみは外を見続ける。
「そうなの?てっきり、菜穂はこの学校で相手を探してるんだと思っていたよ。入学したての頃、頑張ってた感あったから…。」
「…それは、黒歴史と言って。」
「黒くないって。ただの失敗でしょう。あ、あれ。白狼じゃん。あいつ、真夏になってもあの髪型すんのかな。暑いよね。かなり。」
また、菜穂の胸に矢が刺さる。
まゆみの言葉にはグサッとささる。
菜穂は、入学してすぐに高校デビューしようとイメチェンで髪色を脱色に挑戦してみたり、慣れないメイクをしたが、このまゆみに指摘しまくられて、今の普通の女子高生のような格好になった。
顔のイメージにそぐわない格好をしていたため、みんな誰も声をかけてくれなかった。
女子も男子もさらりと交わす。唯一、見てくれたのはまゆみだった。
「だっさ!」
入学式の初対面でその言葉言う?!と思ったけれど、それは1番自分のことを見てくれていたと納得した。
「え、どこらへん?」
「あ、全部だよ。」
「嘘。」
「ほ・ん・と。」
まゆみはそう言いながらも、髪の色やメイクのやり方を伝授してくれた。
初めて友達ができた瞬間だった。
それまでは、気持ち悪がられて、誰も振り向いてくれないし、話しかけてもくれない。
まゆみは声をかけてくれた。
今では何でも話せる無二の親友だ。
時々、グサッとくる言葉には胸に矢が刺さる。
痛い。
辛い。
でも、菜穂にはそれが刺激となり、元気の源とも言える。
1番に自分のことを言ってくれる。
むしろ、感謝している。
「だよね。そういや、白狼ってずっと長袖だよね。確か、体育の時も半袖見たことない。体を隠したい何かをしているのかな。」
「ただの寒がりじゃないの?」
「まさか。」
「筋肉ムキムキとか?」
「それなら、逆に見せるっしょ。」
「うん。そうだ。」
「刺青?!ヤクザ? こわっ。」
「ちゃうべ。高校生だよ。それ言うなら、今の言葉でタトゥーね。シールタイプもあるからわざわざ掘らなくてもオシャレは楽しめるよ。」
「ふーん。」
「菜穂。ずいぶん、白狼のことになると話が盛り上がるんね。興味あるん?」
「全然。絶対ないよ。あんなやつ。オタク嫌いだし。」
「へぇ。近くにいる杉本の前でよく言えるよねぇ。」
「おい!俺はオタクじゃねぇよ。」
「は?」
「ただアニメやゲームが好きなだけだって。」
「杉本ぉ。それがオタクって言うんだよ。」
「嘘、まじで。知らんかったわ。…って、誰だって、ゲームもするしアニメも見るだろ。ひとくくりにすんなよな。秋葉原とかコミケとかに通う人たちだろ?俺、ああいうのは全然興味ないし。本当、ウチで見るだけで楽しめるから。」
「もう、杉本の話いい。飽きた。」
「は?急に冷めるのかよ。」
「私はねぇ。どっちかっていうと、#木村 悠仁__きむらひさひと__#みたいなタイプなんだわ。優等生だし、生徒会に入っているけど、外見もきちんとしてるじゃん。人当たりもいいしさ。菜穂はどう思う?」
木村悠仁は、クラスメイトの学級委員を務めている。人をまとめるのが得意で優等生。誰にでも優しい。先生たちからも信頼が厚い。
悠仁は、龍弥にも怖気づくことなく話しかける。相手の対応としては頷くことや首をふることしかされないが、悠仁の言うことは真面目に聞くらしい。
「私も、いいと思うよ。優しいもんね。恋愛対象ではないから大丈夫。」
「遠慮してる?」
「違うって言ってんじゃん。他校がいいって言ったっしょ。恥ずかしいの。先生や友達やクラスメイトに彼氏彼女ってバレるのが。だから、絶対作らないから。気にしないで。」
「ふーん。そうなんだ。原因はそこか。恥ずかしがり屋なんね。」
菜穂は、本当は悠仁のことは、多少いいなと思っていたが、まゆみが気になると言っているのだから、そこは譲らないと友情にヒビが入ることを恐れた。
チャイムが鳴った。席に戻った。
まゆみには、龍弥のことをオタクだから嫌いと言っていたけれど、好きではなくでも嫌いと言うだけで多少たりともその人のことを考えている。執着があるのかもしれない。
物でも同じなのかもしれない。
ピーマン嫌いと言うと、ピーマン料理以外でと言うとあえて、その料理を思い出す。
何も考えなければ、アイデアも思い浮かばないのに、嫌いな人のことを少しでも頭の中に映し出している。
嫌だと言えば言うほど、あいつが頭から消えない。いらないはずなのに。
無性に腹が立ってくる。
授業中にも関わらず、菜穂は龍弥の後ろを睨みづつけた。
視線を感じた龍弥は鳥肌が立つ。ブルっと震えて、姿勢を正した。
(父さんと母さんでも背中に来たんかな。)
世界史の授業が淡々と進む。
***
今日もフットサルをやるぞと張り切って、バイクを駐車場にとめてヘルメットを外した。耳から垂れるピアスのかざり、長い髪を無い頭にワックスでセットした銀髪を整えた。
メガネをつけていないから、視界はスッキリしている。
深呼吸をして、ベンチに荷物を置いて、靴を履き替えた。
「こんばんは。龍弥くん。」
「あれ、雪田さん。お久しぶりですね。登録してたの気づかなくてすいません。」
「いいの、いいの。急に今日、決めたから。龍弥くんに紹介したくて、娘、連れてきてさ。ストレス溜まっているって言うからやらせようと思って。ほら、菜穂、自己紹介して。」
「あ、はじめまして。父がお世話になってます。雪田 菜穂です。」
制服を着替えて、スポーツウェアを着てきた菜穂は恥ずかしそうに言う。
「はじめまして。将志さんといつもここでフットサルやらせてもらってます。伊藤龍弥です。菜穂さんでしたっけ?フットサルは初めて?」
(なんで、こいつに愛想ふりまかなきゃいけないんだよ。 )
心の気持ちと話す言葉が全く違う龍弥。
(何、この人、コミュ力超高め? 初対面でめっちゃ喋るし、何、この髪型。銀髪?!ピアス開け放題だし。カラコン入れてるし、こんな人、どこの高校よ
。よくこんな人と、お父さんフットサルをやれるわね。)
「はぁ、まるっきり、はじめてですけど…。」
「よし、じゃぁ、俺が教えるから、こっち来て。」
(ちくしょー。お父さんいる手前、自然の流れで教えないと空気悪くするし、同い年は俺しかいないじゃん。あー、どうして、ここにクラスメイトがいるんだよ!?)
龍弥は菜穂の手を引っ張って、連れて行く。心の声と建前が葛藤する。
「龍弥くん、ごめんね。菜穂、覚えるの遅いと思うから。基礎から丁寧に教えてやって~。」
将志は言うが、龍弥はその言葉に反応して教え方が徐々に鬼コーチと化していく。
「菜穂さん、良いっすか。聞いてください。フットサルは、サッカーと違って5人制です。そのうち、フィールドチームが4人、キーパー1人で構成されます。ボールを蹴るって動作は同じですけど、コートのサイズは小さいですし、時間は公式だと20分を2回です。……ーーー
」
龍弥は事細かにフットサルのルールを説明した。
「あとは、ネットやYouTube見て、独学で勉強してください。」
最初はそんなふうに優しく教えていた龍弥は、数分もすると…。
「おい、菜穂!バカ、お前、こっちパスよこせって言っただろ?!」
早速、試合が始まっていた。
今日の集められたメンバーで教えながら、だんだんと言葉が雑になってくる。
名前も呼び捨てになっていた。
「はぁ?!そんな、今日来て、すぐできるわけないでしょーーーが!」
菜穂は叫びつつも、ゴールにボールを蹴ってシュートを決めた。
「…やればできんじゃん。」
「ふん、わたしだってこんなのかんたん…。」
菜穂は何もないところで豪快に転んだ。
「どんくさ。」
「いたたた…。」
「ほら。」
龍弥は手を貸して起こした。
「あ、ありがとう。」
龍弥は起き上がった菜穂の耳元で
「お前、もう、来なくていいよ。」
(俺の素性がバレる前に消えてくれ。)
そう言って、立ち去った。
歩きながら、着ていたシャツで汗を拭く。
20分の2回きっちりゲームして、汗をびっしょりかいた。思っていたより教えながらはハードだった。
教えるのが面倒になったんだろうと思った菜穂は、ペロッと舌を出して、
(あんたなんかに教えられたくないし、不良みたいな顔してふざけんなつぅーの。こっちから願い下げだわ。)
ベンチに座って、水分補給にグビグビとお茶を飲む。大量に汗をかいていた。ふわふわタオルが癒しだった。
龍弥は、むちゃくちゃに
頭をかきむしる。
(あーーーー、調子が狂う。学校のやつには絶対に会いたくなかった……。)
ラウンジの壁にダンと拳を叩きつけた。
愛想を振り撒くのも限界を感じた龍弥は、つい、本音が出た。
遠くから2人を見ていた菜穂の父、将志は何となく、じゃれ合ってて仲が良いなぁと捉えられたようで、また菜穂をここに連れてこようと鼻歌を歌っていた。
飛んだ勘違いしている父だった。
龍弥は明日の学校でどんな顔して過ごせばいいのか変に緊張していた。