出戻り王女の恋愛事情〜人質ライフは意外と楽しい
「ジゼル様、これもお願いします」
「は、はい!」
レシティが追加の繕い物をジゼルの目の前に置いた。
「最近やたらと繕い物が多いね。それも男たちから」
「しかもわざわざここまで持って来たり、貰いに来たり、今までになかったですよね」
「そんなの、理由はわかっているでしょ」
そう言いながら、皆はちらりと繕い物に一生懸命取り組むジゼルに視線を向ける。
「皆、王女様に直してもらおうとわざと破って持ってきてるみたい」
ジゼルがユリウスと夜を共にしてから、三日が経った。
毎日朝は子供たちに勉強やマナーを教え、午後からは作業場で作業する日が続いている。
そして、ユリウスがジゼルが繕ったシャツを自慢したことで、屋敷で働く者たちが次々と繕い物を持ってくるようになった。
「気持ちはわからないでもないけど、やたらと仕事が増えるのは困るわね」
「これでは本当に必要な仕事が滞ってしまいます」
「も、申し訳……ございません。余計なお手間を取らせてしまいました」
一枚のシャツの繕いを終えたジゼルが、レシティたちに謝った。
思ったより忙しいと思っていたが、まさか自分のせいだとは思わなかった。
「謝る必要はありません。ジゼル様のせいではないのですから。うちの男どもが節操がないだけなんですよ」
「そうですよ。私達だけの時と雲泥の差ですよ。まあ、今だけでしょうけど」
「断りますか」
「そうですね」
「あ、私なら大丈夫です。せっかく皆さんが私に期待してくれているのです。出来るだけ頑張ります」
「ですが、根を詰めすぎるとジゼル様の体調が……」
「皆さんなら、少し忙しくなっても頑張られますよね」
「それは……まあ、仕事ですから」
「なら、私も同じように扱ってください。信用されないかも知れませんが、元来体は丈夫なのです」
熱を出してここに運び込まれた身としては、信憑性はないかもしれないが、昔は病気らしい病気を殆どしたことはなかった。
少し繕い物が増えたからと言って、簡単には寝込まない。
「意気込みはわかりました。それなら今預かっている分は責任もってお願いします。でも、これ以上は増えないように、こちらで精査します」
「わかりました」
せっかくなら皆の要望に出来るだけ応えたいところだが、人には限界がある。それにここを仕切っているレシティたちが決めたことにジゼルが口を挟むことはできない。
「お忙しそうですね」
作業場から部屋へ戻るために廊下を歩いていたジゼルに、声をかけてきたのはオリビアだった。
「オリビアさん」
彼女はここに来た日、初めて言葉を交わして以来、ジゼルに話しかけてくるのは今日が初めてだった。
子供たちに教えているときはケーラがそばにいて、作業場にはレシティがいる。オリビアは彼女たちが苦手で、極力関わらないようにしていたからだったのだが、ジゼルはそんなことは知らない。
途中の廊下もいつもメアリーが側にいたのだが、今日は彼女は他に用があってジゼルは一人だった。
オリビアはそれを狙って近づいてきた。
「そんなにがむしゃらに働くなんて、変わっていますわね。何の点数稼ぎですか?」
「点数稼ぎ? 私はそんな……」
「男性たちがなんだか騒いでいるみたいですし、さぞかしいい気分でしょうね」
棘のある言い方に、ジゼルは戸惑う。
なぜそんな言い方をするのか理由がわからない。
しかし、ジゼルの行動の何かが彼女の気に障ったのだろうことはわかる。
「そんな、いい気分とか……そんなこと」
「そうですね。王女様にとってはよくあることで、なんてないことでしょう。田舎に住む男どもなど、都会の洗練された方々に比べれば、赤子の手をひねるようなものでしょう」
そんことはないと言えば、別の理由で難くせをつけられ、どう言えばいいのかジゼルは困惑した。
「リロイたちも手懐けて、人畜無害な顔をして、やることがあざといですわね」
「あ、あざといなんて……私は何も……何か誤解されているのでは?」
オリビアの言いがかりに、ジゼルはなんとか言い返そうとする。
「誤解? あなたが来るまですべてうまく行っていたのに、ちょっと私が実家に帰っている間に、掌を返したように状況が変わっていたのよ。あなたが原因としか思えないわ」
「そんなこと言われても、私が何をしたと……」
「どこまでもとぼけるのね。白々しい。いいわ、あなたがその気なら私も遠慮しないから」
吐き捨てるようにオリビアは言うと、戸惑うジゼルを残して彼女は立ち去った。
「な、何を怒っているのかしら……」
考えられるのは、ユリウスとのことだが、彼とのことは今のところメアリーとケーラしか知らない筈だ。
三日前、ジゼルは明け方までユリウスと共にいた。
夜が明けて空が白み始めた頃、ジゼルはユリウスに抱えられて部屋に戻った。
一人で戻ろうとしたのだが、体が痛くて無理だった。
きっとメアリーはジゼルが戻ってこないことを不審に思い、心配しているだろう。そう思っていたが、部屋に戻るとそこにはメアリーだけでなく、ケーラもいたのだった。
「は、はい!」
レシティが追加の繕い物をジゼルの目の前に置いた。
「最近やたらと繕い物が多いね。それも男たちから」
「しかもわざわざここまで持って来たり、貰いに来たり、今までになかったですよね」
「そんなの、理由はわかっているでしょ」
そう言いながら、皆はちらりと繕い物に一生懸命取り組むジゼルに視線を向ける。
「皆、王女様に直してもらおうとわざと破って持ってきてるみたい」
ジゼルがユリウスと夜を共にしてから、三日が経った。
毎日朝は子供たちに勉強やマナーを教え、午後からは作業場で作業する日が続いている。
そして、ユリウスがジゼルが繕ったシャツを自慢したことで、屋敷で働く者たちが次々と繕い物を持ってくるようになった。
「気持ちはわからないでもないけど、やたらと仕事が増えるのは困るわね」
「これでは本当に必要な仕事が滞ってしまいます」
「も、申し訳……ございません。余計なお手間を取らせてしまいました」
一枚のシャツの繕いを終えたジゼルが、レシティたちに謝った。
思ったより忙しいと思っていたが、まさか自分のせいだとは思わなかった。
「謝る必要はありません。ジゼル様のせいではないのですから。うちの男どもが節操がないだけなんですよ」
「そうですよ。私達だけの時と雲泥の差ですよ。まあ、今だけでしょうけど」
「断りますか」
「そうですね」
「あ、私なら大丈夫です。せっかく皆さんが私に期待してくれているのです。出来るだけ頑張ります」
「ですが、根を詰めすぎるとジゼル様の体調が……」
「皆さんなら、少し忙しくなっても頑張られますよね」
「それは……まあ、仕事ですから」
「なら、私も同じように扱ってください。信用されないかも知れませんが、元来体は丈夫なのです」
熱を出してここに運び込まれた身としては、信憑性はないかもしれないが、昔は病気らしい病気を殆どしたことはなかった。
少し繕い物が増えたからと言って、簡単には寝込まない。
「意気込みはわかりました。それなら今預かっている分は責任もってお願いします。でも、これ以上は増えないように、こちらで精査します」
「わかりました」
せっかくなら皆の要望に出来るだけ応えたいところだが、人には限界がある。それにここを仕切っているレシティたちが決めたことにジゼルが口を挟むことはできない。
「お忙しそうですね」
作業場から部屋へ戻るために廊下を歩いていたジゼルに、声をかけてきたのはオリビアだった。
「オリビアさん」
彼女はここに来た日、初めて言葉を交わして以来、ジゼルに話しかけてくるのは今日が初めてだった。
子供たちに教えているときはケーラがそばにいて、作業場にはレシティがいる。オリビアは彼女たちが苦手で、極力関わらないようにしていたからだったのだが、ジゼルはそんなことは知らない。
途中の廊下もいつもメアリーが側にいたのだが、今日は彼女は他に用があってジゼルは一人だった。
オリビアはそれを狙って近づいてきた。
「そんなにがむしゃらに働くなんて、変わっていますわね。何の点数稼ぎですか?」
「点数稼ぎ? 私はそんな……」
「男性たちがなんだか騒いでいるみたいですし、さぞかしいい気分でしょうね」
棘のある言い方に、ジゼルは戸惑う。
なぜそんな言い方をするのか理由がわからない。
しかし、ジゼルの行動の何かが彼女の気に障ったのだろうことはわかる。
「そんな、いい気分とか……そんなこと」
「そうですね。王女様にとってはよくあることで、なんてないことでしょう。田舎に住む男どもなど、都会の洗練された方々に比べれば、赤子の手をひねるようなものでしょう」
そんことはないと言えば、別の理由で難くせをつけられ、どう言えばいいのかジゼルは困惑した。
「リロイたちも手懐けて、人畜無害な顔をして、やることがあざといですわね」
「あ、あざといなんて……私は何も……何か誤解されているのでは?」
オリビアの言いがかりに、ジゼルはなんとか言い返そうとする。
「誤解? あなたが来るまですべてうまく行っていたのに、ちょっと私が実家に帰っている間に、掌を返したように状況が変わっていたのよ。あなたが原因としか思えないわ」
「そんなこと言われても、私が何をしたと……」
「どこまでもとぼけるのね。白々しい。いいわ、あなたがその気なら私も遠慮しないから」
吐き捨てるようにオリビアは言うと、戸惑うジゼルを残して彼女は立ち去った。
「な、何を怒っているのかしら……」
考えられるのは、ユリウスとのことだが、彼とのことは今のところメアリーとケーラしか知らない筈だ。
三日前、ジゼルは明け方までユリウスと共にいた。
夜が明けて空が白み始めた頃、ジゼルはユリウスに抱えられて部屋に戻った。
一人で戻ろうとしたのだが、体が痛くて無理だった。
きっとメアリーはジゼルが戻ってこないことを不審に思い、心配しているだろう。そう思っていたが、部屋に戻るとそこにはメアリーだけでなく、ケーラもいたのだった。