出戻り王女の恋愛事情〜人質ライフは意外と楽しい
怪我は打ち身と擦り傷だけで済んだ。
しかし、右半身は肩、二の腕、腰、太ももの側面などは赤く腫れ、肩先は皮膚が擦れて血が滲み出ていた。
「暫くしたら赤紫になって、黄緑やら色が変わっていくでしょう。痛みも色が変わるにつれ引いていきます」
「ありがとうございました」
「何があったのですか?」
ファーガスがジゼルと、落ちるところを見たと言うメアリーに尋ねた。
「リロイ様が夕食に来られないというので、様子を見に行こうと……」
「リロイ様が? 具合でも悪いのですか? 私の方には何も言ってきていませんが……」
「ファーガス先生を呼ぶほどのことではないのかも……」
彼を呼んでいない理由はわからないので、そのことはジゼルは何とも言えない。
「私も何も聞いておりませんが」
ファーガスに言われた物を持って戻ってきていたケーラも、首を振る。
「後で診ておきましょう。それで?」
「食堂まで来られないなら、三人で食べようと言ったので、メアリーに後から食事を持ってきてとお願いして、ミア様と階段を昇りかけたら、上からオリビアさんが降りてきたのに会いました」
「オリビアさん? しかし私たちが駆けつけた時には、辺りにはおりませんでしたよ」
「あ、そう言えば、階段でジゼル様たちのすぐそばに……」
「おばさん、あたしにぶつかったの」
「「「え?」」」
ケーラがミアのために軽食を持ってきていて、それをミアは食べていた。
夕食を取りそこねたので、簡単に食べさるためだ。
それを食べ終えたミアが、話に加わってきた。
「あの、彼女もわざとではないと思うわ。軽く当たったけど、ミア様の体が軽いからよろけて」
「え、それじゃあ、わざとだろうがなかろうが、あの人のせいなのには変わらないのに、知らんぷりして逃げたんですか?」
「逃げたなんて……」
そうは思いたくはないが、彼女があの場に残っていなかった理由は、ジゼルにもわからない。
もしかして気が動転してどうしたらいいか、わからなかったのかも知れない。
「探してまいります」
厳しい顔でケーラが言った。
「お願いします」
ファーガスも厳しい表情を作っている。
「私はリロイ様の様子を診てまいります」
「私はジゼル様とミア様とここにおります」
ケーラとファーガス、そしてメアリーはお互い頷き合った。
「だいじょーぶ? いたい?」
二人が出ていった後、ミアがとことこジゼルの方へ歩いてきて、寝台によじ登って聞いてきた。
「いたいなら、泣いてもいいよ。ミアがヨシヨシってしてあげる」
ジゼルの頭の方へ手を伸ばしてくる。
「ふふ、ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。泣くほど痛くはありませんから」
ジゼルは安心させるように微笑んだ。嘘ではなく、痛みはあったが、子供みたいに泣くほどではない。
「ほんと? ほんとにほんと?」
確認するようにミアが聞いてくる。
「ええ、このとおり、ほら」
ジゼルは痛みを堪えながら、右腕をぶんぶん振り回して見せた。
「ほんと? お父様に怒られない?」
「ミア様が悪いわけではないのに、お父様は怒る人ですか?」
「ううん、違う」
「なら、大丈夫です。私もミア様は悪くないと、ちゃんとお話しますわ」
「ほんと?」
「ええ」
ジゼルが力強く頷くと、ミアははにかむように微笑んだ。
しかしケーラは一人で戻ってきた。
「どこにもいらっしゃらなかったわ」
リロイの部屋やあちこちを探したが、オリビアはいなかったと言う。
「どこに行かれたか心当たりは?」
メアリーが尋ねると、ケーラは街の方へ行ったかもしれないと言った。
「街ですか?」
「ええ。オリビア様は時々街の方へ行かれます」
「そうなのですね。誰か親しい方がいらっしゃるのですか?」
「それが、誰の所を尋ねているのか話してくれたことがありませんので、わかりません。誰も深く追求しませんし」
ここでオリビアに強く言えるのはユリウスくらいだとケーラは言った。
そのユリウスも、彼女が何をしているのか特に聞いているところをケーラは見たことがないらしい。
「つまり、彼女がどこにいるか誰も知らないのですね」
「いないと思ったら、ふらっと帰ってきて、また暫くしたらいなくなる。その繰り返しです。でも、今回は呆れました。階段から落ちたジゼル様とミア様を置いていなくなるなんて」
「でも、わざとではなかったと思います」
「そんなの当たり前ですよ。わざとだったら殺人未遂です」
「でも、こうして無事だったのですし」
「ジゼル様は、お優しすぎます」
「メアリーの言うとおりですよ。優しさは美徳ですが、その優しさが相手をつけ上がらせたり、場合によっては余計に苛立たせることになります」
「わ、私は別に…」
「だめ! おーじょさま、怒っちゃ駄目!」
ケーラとメアリー二人から、ジゼルの優しさは良い面もあれば悪い面もあると指摘され項垂れる。
するとミアがそんな二人に向かって、ジゼルを庇うように割って入った。
しかし、右半身は肩、二の腕、腰、太ももの側面などは赤く腫れ、肩先は皮膚が擦れて血が滲み出ていた。
「暫くしたら赤紫になって、黄緑やら色が変わっていくでしょう。痛みも色が変わるにつれ引いていきます」
「ありがとうございました」
「何があったのですか?」
ファーガスがジゼルと、落ちるところを見たと言うメアリーに尋ねた。
「リロイ様が夕食に来られないというので、様子を見に行こうと……」
「リロイ様が? 具合でも悪いのですか? 私の方には何も言ってきていませんが……」
「ファーガス先生を呼ぶほどのことではないのかも……」
彼を呼んでいない理由はわからないので、そのことはジゼルは何とも言えない。
「私も何も聞いておりませんが」
ファーガスに言われた物を持って戻ってきていたケーラも、首を振る。
「後で診ておきましょう。それで?」
「食堂まで来られないなら、三人で食べようと言ったので、メアリーに後から食事を持ってきてとお願いして、ミア様と階段を昇りかけたら、上からオリビアさんが降りてきたのに会いました」
「オリビアさん? しかし私たちが駆けつけた時には、辺りにはおりませんでしたよ」
「あ、そう言えば、階段でジゼル様たちのすぐそばに……」
「おばさん、あたしにぶつかったの」
「「「え?」」」
ケーラがミアのために軽食を持ってきていて、それをミアは食べていた。
夕食を取りそこねたので、簡単に食べさるためだ。
それを食べ終えたミアが、話に加わってきた。
「あの、彼女もわざとではないと思うわ。軽く当たったけど、ミア様の体が軽いからよろけて」
「え、それじゃあ、わざとだろうがなかろうが、あの人のせいなのには変わらないのに、知らんぷりして逃げたんですか?」
「逃げたなんて……」
そうは思いたくはないが、彼女があの場に残っていなかった理由は、ジゼルにもわからない。
もしかして気が動転してどうしたらいいか、わからなかったのかも知れない。
「探してまいります」
厳しい顔でケーラが言った。
「お願いします」
ファーガスも厳しい表情を作っている。
「私はリロイ様の様子を診てまいります」
「私はジゼル様とミア様とここにおります」
ケーラとファーガス、そしてメアリーはお互い頷き合った。
「だいじょーぶ? いたい?」
二人が出ていった後、ミアがとことこジゼルの方へ歩いてきて、寝台によじ登って聞いてきた。
「いたいなら、泣いてもいいよ。ミアがヨシヨシってしてあげる」
ジゼルの頭の方へ手を伸ばしてくる。
「ふふ、ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。泣くほど痛くはありませんから」
ジゼルは安心させるように微笑んだ。嘘ではなく、痛みはあったが、子供みたいに泣くほどではない。
「ほんと? ほんとにほんと?」
確認するようにミアが聞いてくる。
「ええ、このとおり、ほら」
ジゼルは痛みを堪えながら、右腕をぶんぶん振り回して見せた。
「ほんと? お父様に怒られない?」
「ミア様が悪いわけではないのに、お父様は怒る人ですか?」
「ううん、違う」
「なら、大丈夫です。私もミア様は悪くないと、ちゃんとお話しますわ」
「ほんと?」
「ええ」
ジゼルが力強く頷くと、ミアははにかむように微笑んだ。
しかしケーラは一人で戻ってきた。
「どこにもいらっしゃらなかったわ」
リロイの部屋やあちこちを探したが、オリビアはいなかったと言う。
「どこに行かれたか心当たりは?」
メアリーが尋ねると、ケーラは街の方へ行ったかもしれないと言った。
「街ですか?」
「ええ。オリビア様は時々街の方へ行かれます」
「そうなのですね。誰か親しい方がいらっしゃるのですか?」
「それが、誰の所を尋ねているのか話してくれたことがありませんので、わかりません。誰も深く追求しませんし」
ここでオリビアに強く言えるのはユリウスくらいだとケーラは言った。
そのユリウスも、彼女が何をしているのか特に聞いているところをケーラは見たことがないらしい。
「つまり、彼女がどこにいるか誰も知らないのですね」
「いないと思ったら、ふらっと帰ってきて、また暫くしたらいなくなる。その繰り返しです。でも、今回は呆れました。階段から落ちたジゼル様とミア様を置いていなくなるなんて」
「でも、わざとではなかったと思います」
「そんなの当たり前ですよ。わざとだったら殺人未遂です」
「でも、こうして無事だったのですし」
「ジゼル様は、お優しすぎます」
「メアリーの言うとおりですよ。優しさは美徳ですが、その優しさが相手をつけ上がらせたり、場合によっては余計に苛立たせることになります」
「わ、私は別に…」
「だめ! おーじょさま、怒っちゃ駄目!」
ケーラとメアリー二人から、ジゼルの優しさは良い面もあれば悪い面もあると指摘され項垂れる。
するとミアがそんな二人に向かって、ジゼルを庇うように割って入った。