【コンテスト用マンガシナリオ】壊したいほど、キミが好き。
episode.3
◯翌朝・自宅洗面所
菜月は鏡の前で、サラサラの髪を下ろしたまま、唇がつやつやに潤う色付きリップを塗ってみる。
いつもの真面目な風紀委員の面影はなく、唇がぷるんと桜色になった可愛い女子高生。
回想の真紘『校則がなくなったら、俺好みの髪型で来てって言ったじゃん』
鏡に映る自分を見てハッとする。
菜月(べっ別に水嶋くんの好みに合わせたわけじゃないし! ていうか校則違反だし!)
慌てて髪を結び、ティッシュで唇を拭う菜月。
◯数日後・特進科(1-A)教室
色んなところで校則廃止に賛成の署名をしたという話題が繰り広げられている。
匿名で投書箱を用意した人物には、面白おかしく『キング』と呼び名がついた。
陽葵「やっぱり、あっという間に七割の署名が集まったね」
あれから三日と経たずに再び第一体育館前に張り紙が掲示され、【署名が全校生徒の三分の二を超えたため、これをもって校長と理事長へ嘆願書を提出します】と記されていた。
陽葵「通るといいなぁ、嘆願書」
菜月「陽葵は署名したの?」
陽葵「うん。だってメイクだって髪型だって自由でいいと思うし、私は賛成。菜月は?」
菜月「私?」
これまでメイクをしていたり髪型違反の生徒に対し、反省文を書くよう促してきた。
『学生の本分は勉強なのだから、メイクや派手な髪型は相応しくない』
そうマニュアル通りの答えを用意して。けれど……。
菜月(それはルールだったから。私の意見なんて、深く考えなかった……)
黙り込む菜月。
そこに担任が教室へ入ってきたため、おしゃべりは中断。
教師「連絡事項は二点。来月の体育大会の練習だが、決まりを守らず遅くまで残っている者がいる。下校時間は守るように。それから―――」
一拍置いて、教師が肩を竦める。
教師「嘆願書が通ったそうだ。今後は髪型や化粧は自由だが、くれぐれも学生らしさを損なわない程度だぞ。金髪など派手すぎる髪色などは今後も禁止だ。改定後の校則のプリント配るから、ちゃんと目を通しておくように」
わぁっと盛り上がる教室。
みんな一様に嬉しそう。
特に火傷をしてしまった生徒Bは明らかにホッとし、自分の頬に手を添えている。
菜月(本当に、校則が変わった……!)
今までずっと『悪』とされていたものが突然解禁され、菜月の心はついていけないでいた。
その日、日直だった菜月はホームルームが終わると、黒板をきれいに掃除する。
高い部分をうまく消せないで背伸びをしていると、後ろから黒板消しを取られる。
菜月「水嶋くんっ」
振り向くと、真紘が代わりに上の方をきれいに消してくれる。
壁ドンのような、長い腕に囲い込まれている格好が恥ずかしい。
慌てて黒板の方に視線を戻し「ありがとうございます」と呟くと、真紘は口の端を上げて笑った。
真紘「変わったな、ルール」
そのあとに続くであろうセリフを想像し、赤くなる菜月。
先日の真紘『校則がなくなったら、俺好みの髪型で来てって言ったじゃん』
頭の中から回想を追い出し、冷静に返事をする。
菜月「そうですね」
真紘「風紀委員さんの仕事をなくしちゃった?」
クスッと笑われ、菜月はムッとしながら答える。
菜月「校則はメイクや髪型の規定だけじゃありません」
真紘「そうだな。無駄な校則はたくさんある。まだこれからだ」
菜月「えっ?」
思わず振り返ると、「高いところは男子にやらせればいいよ」と黒板を消し終え、手をパンパンと払う真紘にまっすぐに見つめられる。
真紘「来週からは好きな髪型とメイクで学校に来ればいい。これまではルールに縛られて楽しめなかったんだろ」
確かに、菜月は元々オシャレが好きだ。
髪だってアレンジしたいし、高校生になったのだから軽いメイクだってしてみたい。
けれど、校則で禁止されていたから我慢していた。
ルールは『守らなくてはいけない』から。
真紘「森下さんを縛りつけるルールが、やっとひとつなくなったな」
勝ち気な顔で笑う真紘に思わず見惚れてしまう菜月。
菜月(もしかして、あのポスターは水嶋くんが……?)