二人のイケメンに好かれている私は困っています!
第三話 私の家で二人きり
帰り道、私たちの間には朝よりも気まずい空気が流れていた。

かれこれ学校を出て、既に五分は経過している。それに、まだ私の腕は隼に掴まれたまま。

「ねぇ・・・」

「ねぇ、隼ってば!痛いよ、腕が・・・」

「あぁ、ごめん」

離された腕を見ると、彼の手の跡が赤く私の腕に刻まれている。

「どうしたの。隼らしくないじゃん」

「わるい。ついムキになっちゃってさ」

普段よりも明らかに元気のない隼。一体どうしたというのだろうか。

「ねぇ隼。なんで奏真くんにあんな言い方したの。せっかく勉強に誘ってくれたのに」

「しらね・・・」

「ちょっと!そんな言い方しなくてもいいじゃない。今日の隼なんか変だよ・・・」

「莉音は・・・りお、ん・・・」

ゴモゴモと口籠っているせいか、何を言っているのか全く聞き取れない。まるで、私の目の前にいる彼は普段とは違う隼に見えてしまう。

「ちゃんと聞いてるから、話してよ」

「莉音はさ、あいつのこと好きなの?」

「へ?」

突然の言葉に私の頭はこんがらがってしまう。予想外すぎて、どこから出たのかわからないトーンの声が出てしまった。

私が奏真くんのことを好き!?どう考えたら、そんなことになるのだろうか。

確かに彼のことを尊敬はしているし、すごい人だとは思っている。でも、好きだと感じたことは一度もない。

「いや、ないない!私、奏真くんのこと友達としか思ってないから」

「そっか・・・よかった」

(よかった?私は今、何か隼が喜ぶようなことを言っただろうか)

オレンジ色に光る太陽を背景に隼が笑った。久しぶりに向けられた彼の本当の笑顔。作られた笑顔ではなく、自然な心から笑っている顔。

「じゃあさ、莉音」

「ん?」

「俺のことだけ見ててよ」

「うん、見てるよ」

何当たり前のことを言っているのだろう。今、私の前にいるのは隼なのだから、君しか私の視界にいないのに。

光加減の問題なのか、隼の顔がオレンジよりもさらに赤みがかっているように見えた。



「ねぇ、隼。私の家に寄って行かない?」

もう機嫌が良くなったのか、先ほどから私の話を聞いてくれている隼。時折、彼からも話題を振ってくれるので、あっという間に私の家の到着してしまった。

「はぁ!なんでだよ・・・」

「だって、私に数学教えてくれるんじゃないの?」

「あ・・・」

「あ〜! すっかり忘れてたな〜、このやろっ!」

彼の脇腹を人差し指で小突く。その瞬間、隼の声が裏返って当たり一面に響き渡る。昔からここが隼の弱点なのは、成長した今でも変わっていないらしい。

「急に小突くなよ。分かった、見てやるからさっさと終わらせるぞ」

「さっすが、私の幼馴染!」

自分で言ったのにもかかわらず、胸がズキンっと痛む音が聞こえる。これ以上先のことを望んでも仕方がないのに。だって、隼が私のことを好きなはずがないのだから。



家に入ってからはもう地獄だった。勉強モードに切り替えた隼は、まさに鬼とも言えるほど厳しかった。

理解ができるまで永遠と問題を解かされ、横に置いてある携帯に触れようとするならば手を叩かれ、おかげさまで実に濃い一時間になった。

その結果、今日の授業内容は間違いなく完璧と言えるほどの理解力を手に入れることができた。

彼の脳みそはどうなっているのか気になったが、もし見えたところで私には到底理解できないものが詰まっているのだろう。

「はぁ〜疲れた。ねぇ、何か飲む?」

「あぁ、お茶がいいな」

私の勉強を一時間みっちりと教え込んでいたのに、今は自分の勉強をしている隼。一旦集中してしまうと、当分の間こちらの世界に戻ってくることはない。

昔から集中力は他の人と比べると遥かに長けていた彼。集中力と彼の努力が相まって、今の完璧な隼が存在しているのだろう。

並大抵の努力では、きっと彼みたいになることはできない。

一階にお茶を取りに行って、部屋に戻ってくる。相変わらず、難しそうな参考書と睨み合っている彼。

「なぁ、莉音。鞄の中から、黒い箱取って」

「分かった」

鞄を漁ると、黒い箱らしきものが出てきた。

「これ?」

「それ、ありがとな」

黒い箱を開けると、そこには黒い大きな縁の眼鏡が入っていた。

「え、隼。目悪くなったの?」

「そうみたい。勉強の時だけはかけることにしてる」

彼の整った顔に装着される眼鏡。

(うわぁ、やばぁ。普段もかっこいいけど、眼鏡をかけた時の破壊力えぐぅ)

ヤンチャっぽい顔の隼が一瞬にして、凛々しい優等生みたいな顔つきに変わって真面目そうに見える。

眼鏡をかけただけで、こんなにもドキドキしてしまうものなのだろうか。ぼーっと彼のことを無意識に眺めてしまう。

「・・・い。おーい、莉音?」

ふと意識を戻すと、隼の顔が間近に迫っているではないか。フーッと息を吹きかければ、完全に当たってしまう距離に。

「ん、あっ!ごめん、ぼーっとしてた」

「そうか、てっきり何か考え事でもしてるのかと思った」

(そうです!あなたのことを考えてました)

なんて言えるわけもなく、ごめんと謝るだけの私。

「隼はもう終わったの?」

「あぁ終わったよ、誰かさんがぼーっとしている間にな」

ゆっくりと立ち上がり荷物を整理する隼。どうやら、帰るらしい。隼が帰るのは寂しいが、ずっとこのまま二人っていうのも心臓がもたない。

「気をつけて帰ってね」

「おう。じゃーな、お馬鹿さん」

私のおでこに優しくデコピンをする彼。痛みはない。むしろ、温かさが感じられる。

「もう!」

ガラスのコップに入れられたお茶を半分飲んで、彼は私の家を出て行ってしまった。

私の部屋には彼の微かな匂いと、半分だけ残されたお茶だけが残る。

片付けようと彼のコップに手をかける。

(これを飲んだら...私は隼と...間接...いや、だめだ!私の初めてはちゃんと本物とがいい)

邪な考えが頭に浮かんだが、なんとか耐えることができた。今は、このおでこの温もりだけで私は幸せなのだ。











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