二人のイケメンに好かれている私は困っています!
第四話 これは恋の予感!
「ただいま〜」

「おかえり、ママ!」

「あら、ご飯の用意してくれたの?今日の夕飯はな〜に」

「うん、ママも仕事で頑張ってるからね。教えな〜い!早く手を洗ってきて」

「助かるわ〜!は〜い、すぐに洗ってきます」

早く家に帰ってこれた日は、ママの負担を減らすために家事を手伝っている。今日は、割と時間があったので夕飯の準備をし終えたところ。

「ママ〜、もう食べるよ!」

「はーい! おぉ、すき焼きだ!」

冷蔵庫から缶ビールを持ってくるママ。いつか私にもあの味が美味しいと感じられる日が来るのだろうか。

その時が来たら、最初はママと飲んでみたいな。

"プシュッ"と軽快な音がリビングに響き渡る。音からして美味しそうだなと感じてしまう。

「って! ままスーツのままじゃん!」

「えー、着替えるのめんどくさいし、この姿だとビールの美味しさが増すのよ」

到底私には理解できない謎理論だが、仕事を頑張っているので許すとしよう。ママは、誰もが知る大企業のなかなか偉い役職のキャリアウーマンなのだ。

家では基本的にだらしないが、仕事だとそれは別人に変貌するらしいが、全く想像がつかない。

ママの仕事のおかげで、うちは父親なしでもやっていけているのだ。だから、何一つ不自由がない。少し家でだらしないのは、どうにかしてほしいけれど。

「早く食べよ! ってもうビール飲んでるし!」

「開けたらすぐ飲まないと、この子がかわいそうだから」

「そうだね。いただきます!」

今日もママと二人の笑いが絶えない温かな夕食の時間。私は一日の中でこの時間が一番好きなのだ。互いに今日あったことを報告し合い、同じご飯を食べる。

誰かとご飯を食べるのは、一人で食べるよりも数倍美味しく感じられるものだ。たまにママの帰りが遅くなって、一人で食べることがある時よく思う。

夕飯を食べ終えた私は、ママが食器を洗うと言うのでその間にお風呂に入ることにした。今日一日かいた汗を洗い流す。

全身を洗い終えた後にゆっくりと湯船へと浸かる。

「ふぅぅぅ。きもちぃぃ」

全身の力が一気に抜けていく。

(今頃、隼は何をしているのかな。もしかしてお風呂かな)

ふと、隼のことが頭をよぎる。恥ずかしくなって、湯船に顔を沈めていった。熱いけれど、今の私の頭の中ほど熱はなかった。

湯船に溢れる大量の空気の泡。お湯の中で私が吐き出した息が、泡として湯船に広がっていく。割れては散って、また新たな泡が浮き上がってくる。

(あぁ、隼にさっき会ったばかりなのに、もう会いたいよ)

そんな雑念を打ち消したかったけど、泡のように消えることはなかった。考えれば、考えるほどこの想いは募っていくばかりだった。

「莉音、今日お風呂長かったね」

「ちょっとのぼせちゃったかも・・・」

「ちゃんと水分補給しな〜。あ、もしかして何か考え事でもしてたの〜?」

ニヤニヤしながら、私の顔を覗き込んでくるママ。ちなみにママは、私が隼のことを好きなのはずっと昔から知っている。きっとそのことをいじってきているのだろう。

その嫌味ったらしい皮肉を含んだ笑みが鬱陶しい。

「な、何も考えてないから!」

慌ただしく自分の部屋へと、逃げ込んでいく私。全く思春期の高校生をあまり揶揄わないでほしい。

電気の灯っていない暗い部屋に明かりを灯す。一瞬にして、私の部屋の全貌が視界に入ってくる。

部屋に置かれているほとんどのぬいぐるみや写真は隼との思い出のものばかり。私の方が身長が高かった頃の写真もある。

(この時の隼は私にデレデレだったな〜。今ではあんなにツンツンしちゃって)

少し寂しいが、大人に成長したのだと思うと嬉しい気もする。


"プルルルル"

着信音が私の静まり返った部屋鳴り響く。

「誰からだ・・・えっ!隼じゃん」

急いで携帯の画面をスライドし、通話を開始する。焦っているのを悟られないように、深呼吸をしてから言葉を発する。

『もしもし・・・』

『今、大丈夫だった?』

電話だからか、隼の声が普段よりも増して優しく聞こえてくる。普段はあまり電話をしない私たち。そのためか、彼の声を聞いていると自然と眠たくなってくる。

『大丈夫だよ。何か用でもあったの?』

『いや、特にないけど急に莉音の声聴きたくなった』

"ズキュンッ"

心臓が何かに打たれて貫かれた。何それ...絶対に外では言わないような言葉に、本当に電話の相手が隼なのか疑わしい。

『え、あ、そうなの。実は私もそう思ってたところ・・・』

『・・・嬉しい』

(なんだよ、かわいい生き物は! 普段からもこうしてくれよ!)

先ほどから私の心の声は叫び散らかしている。こんな甘々な隼は滅多にお目にかかれない。

『ねぇ、隼は今何してたの?』

『莉音と電話してる』

"当たり前じゃん"

そうツッコミたいけどできない。なぜか、これしきのことでも隼のことを可愛いと感じてしまう。

『あ、あのさ。知ってる?』

『何をだよ。主語がないぞ』

『す、好きな人の声を聞くと眠たくなるんだって!』

焦ってしまい、訳の分からぬことを口に出してしまった。

『ヘぇ〜、そうなんだ。莉音は眠たくなった?』

『な、いや。元々眠かったし!』

『別にそんな威張らなくても』

図星をつかれたようで、ついムキになってしまう。

『そういう隼はどうなのよ』

『俺は・・・眠たくなったかな・・・』

(え、何かの聞き間違い...?いや、でも確かに隼は...)

『え、それってさ・・・』

『ごめん、もう寝落ちしそうだから切るわ。おやすみ』

『あ、おや・・・』

"ツーツーツー"

返事をする前に一方的に電話を切られてしまった。部屋に響く通話が切れた時の音。いつもならこの通話が切れた後の音が嫌いだった。一瞬にして孤独という寂しさが増してしまうから。

でも、今はこれがあって助かった。この通話が切れた音が、私の昂った気持ちを落ち着かせてくれた。熱りが冷めるまでにだいぶ時間はかかったけれど。




















< 4 / 7 >

この作品をシェア

pagetop