二人のイケメンに好かれている私は困っています!
第五話 攻める恋のライバル
翌日も当たり前のように、私の家の前にいる隼。今日は家のチャイムを鳴らされる前に家を出ることに成功した私だったが、『遅い』という表情のまま立っているのは変わらないらしい。
彼はいつから私の家の前に、立っているのだろうと疑問にも思ってしまう。聞いたところで、彼は『今きた』としか言わないだろうが。
彼のことを見ると、昨晩の電話のことを思い出して恥ずかしくなってしまう。
だって、そういうことだよね...隼も私のこと。
「お、おはよう、隼」
思い出したせいで、変に言葉が詰まってしまう。
「おう」
(あ、いつも通りの隼だ)
昨日の隼は別人だったのではないかと、錯覚してしまいそうになる。やっぱりツンツンしている隼の方が馴染んでいて落ち着く。
昨日みたいなデレっとした隼もいいが、毎日は心臓が持ちそうにないのでたまにくらいがちょうどいい。
(ま、そのたまに来る破壊力が凄まじいんだけどね)
「昨日はよく眠れた?」
「・・・・・」
「隼?」
「寝れたよ!」
どうやら、今のは聞いてはいけなかったらしい。スタスタと先を歩いて行ってしまう隼の背中を私は、彼の二分の一の歩幅で追い続けた。
登校途中に見える、豊かに茂っている木々たちの影を歩く私たち。今が五月といえど、近年の温暖化のこともあり非常に暑い連日が当然のようにやってくる。
その点、木々が作り出す日陰はまさに神。たかが日陰だと思っている人も多いかもしれないが、実は比べ物にならない。
全く体感温度が違うんだよ。夏ほど、自然の木々たちに感謝することはないと思う。
それに、木々の隙間から差し込んでくる光を下から眺めるのが好きなんだ。
緑の葉に揺られてキラキラと光が、揺れて輝いている見えるのが、綺麗すぎてたまらない。
木を眺めている間にも、隼はどんどんと私のことを置いて先へと行ってしまう。本当に勝手だけど、彼が優しいことは私が一番知っている。
私の先を歩いはいるけれど、何回もこちらをチラチラと見ながら歩いてくれている。私に何かがあったらすぐに助けられるようにだろう。
そんなに気になるなら、今からでも隣を歩けばいいのに、自分から寄り添うのは恥ずかしいに違いない。
つい、可愛いなと思ってしまう私は、おバカなのかもしれない。
彼の茶色の髪の毛が、光の当たり具合でさらに明るく見える。サラサラと揺れる彼の髪と同様に、私の心も色々な意味で揺れに揺れまくっていた。
学校に着くと、自然と私たちは二手に分かれる。もちろん、学年が一つ離れているため教室がある階が違うから。
「じゃあ、また放課後ね」
「・・・おう」
大きく頼もしくなった彼の背中に声をかける。返ってきた返事はたったの二文字。それもこちらを見ずに放たれた言葉。
そっけないことに変わりはないけれど、私はその背中から目を離すことができなかった。
「おはよう、七瀬さん」
隼の背中が見えなくなったところで、誰かに話しかけられる。誰かと言っても、もう相手はわかっているのだが。
「おはよう、奏真くん」
振り返りながら、彼に挨拶を交わす。
「え、どうして僕ってわかったの?」
驚きを隠せない表情の彼が、私の前に立ち尽くしている。
「簡単だよ。もう何回も聞き続けてきた声だからね」
さらに彼の目が大きく見開かれる。ただでさえ、大きな目が今にも飛び出してしまいそう。
(そんなに驚くようなこと言ったかな)
「そっか・・・ありがとう」
(ありがとう?お礼を言われることを私はしただろうか)
いつの間にか驚きに満たされていた彼の表情が、朗らかな微笑みへと変わっている。その表情に不覚にもドキッとしてしまった。
やはり、イケメンの笑顔というのは、人々の心を惹きつける絵になってしまうのだな。
隼の笑った顔の破壊力もやばいが、こちらも相当のものだ。
この笑顔を見せられて落ちていく女の子は数しれないだろう。今にしろ、これから先にしろ。
「そろそろ、教室にいこっか」
「そうだね」
危なかった...
『よーし、今日は席替えをするぞ!』
担任の菊池先生の声が、元気を失っている生徒たちにやる気をもたらす。これから授業で憂鬱だったが、席替えと聞き私以外のクラスメイトたちも大いにはしゃいでいる。
『まじ!』
『先生、神』
『頼む、あの子の隣に・・・』
様々な声が教室中を埋め尽くしていく。個人個人がそれぞれの想いを抱えて。
『それじゃ、右側の列からくじを引いていけ〜。番号が書いてあるから、それが新しい自分の席だ』
みんな気合十分。私も負けじと、気合いを入れる。
(どうか、いっちばっん後ろの席になりますように!!!)
結果は惨敗...一番後ろの席を願ったのに、今私の席は一番前に置かれている。さらに悲惨なことになんと教卓の真ん前。
数ヶ月の間は地獄でしかない。教室の後方からは、萌絵の声が耳障りなくらい聴こえてくる。
(なんで、萌絵が一番後ろで私が一番前なんだよ)
睨みつけるように萌絵を見つめるが、彼女は余裕そうな表情のまま嫌味ったらしく手を振りかえしてくる。
もう本当に運がなさすぎる。
「よろしくね、七瀬さん」
「奏真く〜ん! 助かった話せる人が隣で」
かろうじて奏真くんが私の隣の席になったことが、唯一もの救い。ホッと安心してしまう自分がいる。
「よかったよ、七瀬さんが隣の席で。願ってたのが、うまくいったみたい」
「え、願ってたの?」
「うん。七瀬さんが隣だったら楽しいだろうな〜って思ってね」
びっくりした。一瞬、もしかして彼も私のことが好きなのかと、自惚れてしまった。
「私もそれは思ってたよ〜」
「これを機にさ・・・」
「うん?」
真剣な顔になる彼に、体が身構えてしまう。彼は何を言おうとしているんだと。
「七瀬さんのこと・・・名前で呼んでもいいかな?」
(なんだ、そんなことか。そんな真剣な顔しなくてもいいのに)
「もちろんいいよ!私からしたら、やっとかって感じだけどね」
「り、莉音ちゃん・・・」
"ドキッ"
初めて彼に名前を呼ばれたからなのか、心臓の鼓動が速くなっていく。
(あぁ、私ドキドキしちゃってる・・・)
「な、なんでちゃ、ちゃん付なの〜」
動揺を包み隠せないまま言葉を発するが、彼の目を見ることができない。恥ずかしい...
「呼び捨ては僕には無理そうだよ」
両手で自分の顔を隠している姿が、可愛らしくて無理。
「そ、そっか・・・いつか呼び捨てしてくれるの待ってるね」
「頑張るよ・・・その前に僕は他に頑張らないといけないことがあるから」
なんだろうか。彼が頑張らないといけないこととは。もう彼は完璧すぎるほどの力があるのに、まだ何か足りないものがあるのか。
そういえば、これだけ隼と同じく完璧人間なのに彼女がいるって噂を聞いたことがない。もしかして、彼の頑張ることはそういうことなのかもしれない。
「頑張ってね!」
「うん、頑張るよ。負けないように!」
(あぁ、またやられてしまった。その笑顔はずるいって)
騒めく教室の中、私たちだけは違った空間に隔離されていた気がした。
彼はいつから私の家の前に、立っているのだろうと疑問にも思ってしまう。聞いたところで、彼は『今きた』としか言わないだろうが。
彼のことを見ると、昨晩の電話のことを思い出して恥ずかしくなってしまう。
だって、そういうことだよね...隼も私のこと。
「お、おはよう、隼」
思い出したせいで、変に言葉が詰まってしまう。
「おう」
(あ、いつも通りの隼だ)
昨日の隼は別人だったのではないかと、錯覚してしまいそうになる。やっぱりツンツンしている隼の方が馴染んでいて落ち着く。
昨日みたいなデレっとした隼もいいが、毎日は心臓が持ちそうにないのでたまにくらいがちょうどいい。
(ま、そのたまに来る破壊力が凄まじいんだけどね)
「昨日はよく眠れた?」
「・・・・・」
「隼?」
「寝れたよ!」
どうやら、今のは聞いてはいけなかったらしい。スタスタと先を歩いて行ってしまう隼の背中を私は、彼の二分の一の歩幅で追い続けた。
登校途中に見える、豊かに茂っている木々たちの影を歩く私たち。今が五月といえど、近年の温暖化のこともあり非常に暑い連日が当然のようにやってくる。
その点、木々が作り出す日陰はまさに神。たかが日陰だと思っている人も多いかもしれないが、実は比べ物にならない。
全く体感温度が違うんだよ。夏ほど、自然の木々たちに感謝することはないと思う。
それに、木々の隙間から差し込んでくる光を下から眺めるのが好きなんだ。
緑の葉に揺られてキラキラと光が、揺れて輝いている見えるのが、綺麗すぎてたまらない。
木を眺めている間にも、隼はどんどんと私のことを置いて先へと行ってしまう。本当に勝手だけど、彼が優しいことは私が一番知っている。
私の先を歩いはいるけれど、何回もこちらをチラチラと見ながら歩いてくれている。私に何かがあったらすぐに助けられるようにだろう。
そんなに気になるなら、今からでも隣を歩けばいいのに、自分から寄り添うのは恥ずかしいに違いない。
つい、可愛いなと思ってしまう私は、おバカなのかもしれない。
彼の茶色の髪の毛が、光の当たり具合でさらに明るく見える。サラサラと揺れる彼の髪と同様に、私の心も色々な意味で揺れに揺れまくっていた。
学校に着くと、自然と私たちは二手に分かれる。もちろん、学年が一つ離れているため教室がある階が違うから。
「じゃあ、また放課後ね」
「・・・おう」
大きく頼もしくなった彼の背中に声をかける。返ってきた返事はたったの二文字。それもこちらを見ずに放たれた言葉。
そっけないことに変わりはないけれど、私はその背中から目を離すことができなかった。
「おはよう、七瀬さん」
隼の背中が見えなくなったところで、誰かに話しかけられる。誰かと言っても、もう相手はわかっているのだが。
「おはよう、奏真くん」
振り返りながら、彼に挨拶を交わす。
「え、どうして僕ってわかったの?」
驚きを隠せない表情の彼が、私の前に立ち尽くしている。
「簡単だよ。もう何回も聞き続けてきた声だからね」
さらに彼の目が大きく見開かれる。ただでさえ、大きな目が今にも飛び出してしまいそう。
(そんなに驚くようなこと言ったかな)
「そっか・・・ありがとう」
(ありがとう?お礼を言われることを私はしただろうか)
いつの間にか驚きに満たされていた彼の表情が、朗らかな微笑みへと変わっている。その表情に不覚にもドキッとしてしまった。
やはり、イケメンの笑顔というのは、人々の心を惹きつける絵になってしまうのだな。
隼の笑った顔の破壊力もやばいが、こちらも相当のものだ。
この笑顔を見せられて落ちていく女の子は数しれないだろう。今にしろ、これから先にしろ。
「そろそろ、教室にいこっか」
「そうだね」
危なかった...
『よーし、今日は席替えをするぞ!』
担任の菊池先生の声が、元気を失っている生徒たちにやる気をもたらす。これから授業で憂鬱だったが、席替えと聞き私以外のクラスメイトたちも大いにはしゃいでいる。
『まじ!』
『先生、神』
『頼む、あの子の隣に・・・』
様々な声が教室中を埋め尽くしていく。個人個人がそれぞれの想いを抱えて。
『それじゃ、右側の列からくじを引いていけ〜。番号が書いてあるから、それが新しい自分の席だ』
みんな気合十分。私も負けじと、気合いを入れる。
(どうか、いっちばっん後ろの席になりますように!!!)
結果は惨敗...一番後ろの席を願ったのに、今私の席は一番前に置かれている。さらに悲惨なことになんと教卓の真ん前。
数ヶ月の間は地獄でしかない。教室の後方からは、萌絵の声が耳障りなくらい聴こえてくる。
(なんで、萌絵が一番後ろで私が一番前なんだよ)
睨みつけるように萌絵を見つめるが、彼女は余裕そうな表情のまま嫌味ったらしく手を振りかえしてくる。
もう本当に運がなさすぎる。
「よろしくね、七瀬さん」
「奏真く〜ん! 助かった話せる人が隣で」
かろうじて奏真くんが私の隣の席になったことが、唯一もの救い。ホッと安心してしまう自分がいる。
「よかったよ、七瀬さんが隣の席で。願ってたのが、うまくいったみたい」
「え、願ってたの?」
「うん。七瀬さんが隣だったら楽しいだろうな〜って思ってね」
びっくりした。一瞬、もしかして彼も私のことが好きなのかと、自惚れてしまった。
「私もそれは思ってたよ〜」
「これを機にさ・・・」
「うん?」
真剣な顔になる彼に、体が身構えてしまう。彼は何を言おうとしているんだと。
「七瀬さんのこと・・・名前で呼んでもいいかな?」
(なんだ、そんなことか。そんな真剣な顔しなくてもいいのに)
「もちろんいいよ!私からしたら、やっとかって感じだけどね」
「り、莉音ちゃん・・・」
"ドキッ"
初めて彼に名前を呼ばれたからなのか、心臓の鼓動が速くなっていく。
(あぁ、私ドキドキしちゃってる・・・)
「な、なんでちゃ、ちゃん付なの〜」
動揺を包み隠せないまま言葉を発するが、彼の目を見ることができない。恥ずかしい...
「呼び捨ては僕には無理そうだよ」
両手で自分の顔を隠している姿が、可愛らしくて無理。
「そ、そっか・・・いつか呼び捨てしてくれるの待ってるね」
「頑張るよ・・・その前に僕は他に頑張らないといけないことがあるから」
なんだろうか。彼が頑張らないといけないこととは。もう彼は完璧すぎるほどの力があるのに、まだ何か足りないものがあるのか。
そういえば、これだけ隼と同じく完璧人間なのに彼女がいるって噂を聞いたことがない。もしかして、彼の頑張ることはそういうことなのかもしれない。
「頑張ってね!」
「うん、頑張るよ。負けないように!」
(あぁ、またやられてしまった。その笑顔はずるいって)
騒めく教室の中、私たちだけは違った空間に隔離されていた気がした。