二人のイケメンに好かれている私は困っています!
第六話 君の匂いが懐かしい
放課後の合図を告げるチャイムが、校内全体に響き渡る。
今日も隼は、部活があるので私は終わるまで待っていないといけない。前に『部活見に行ってもいい?』と聞いたら、即答で断られた。
理由はわからないが、本当に嫌そうにしていたので、私は部活がない日は教室で時間を潰している。
ちなみに隼はバスケ部で、一年生ながらもう既にレギュラーの座を獲得している。私は、華道部に所属している。週三の部活のため、気楽でいいのが最大のメリット。
でも、いざ部活になると皆が真剣になるのが、また面白いところではある。その気迫はそこらへんの運動部にも負けないだろう。
それもそのはず、うちの華道部は生花の全国大会でも名門と言われるくらいなのだから。
今日は、オフの日なのでのんびりと隼のことを勉強でもして待っているとしよう。
教室には私しかいないので、優雅にこの広々とした空間を独占できる。
"ガラガラ"
教室の前方に取り付けられているスライド式の扉が開く。作り上勝手に開くことはない。誰かが開けた時しか開かないのだから。
「あれ、なな。間違った、莉音ちゃん」
教室に入ってきたのは、制服のワイシャツの袖を捲って着崩した姿の奏真くんだった。
「部活じゃなかったの?」
「それがさ、顧問が急に外に出て行かないといけないらしくて、それで今日はオフになっちゃった」
「そうなんだ」
「莉音ちゃんは何してるの?」
「私は隼が部活終わるの待っているところ」
「あぁ、幼馴染の彼ね」
「うん。あと二時間は待ってないといけないけどね」
「それは大変だね。もし、よかったらだけど・・・今日は僕と一緒に帰らない?」
「えっ?なんで私なの・・・」
「おかしなこと言うね。僕が莉音ちゃんと一緒に帰りたいからって理由じゃだめかな?」
(何その言い方。可愛すぎて断ることが難しいじゃん)
私の内心は葛藤していた。隼を待っていようか、奏真くんと今日だけは一緒に帰ろうか。
結局私は、彼を選ぶことにした。この選択が正しかったのか、間違っていたのかは私にはわからない。
きっと正しかったはず...だって、またあの笑顔を見ることができたんだから。
「わりぃ、待たせた」
「いいよ、勉強してたから」
急いできたのか、ワイシャツの裾はズボンから出ていて、おまけに靴はバスケットシューズのまま。完璧人間の隼にしては珍しいミス。
それに、体育館からここまで走ってきたのか、遠くからでもわかるほど肩で息をしているのが見える。
「うわっ。これバッシュじゃん!だから、廊下走ってる時キュッキュッうるさかったのか」
「隼・・・制服もぐちゃぐちゃだからね」
「・・・マジじゃん」
いつだって、隙のないかっこいいはずの隼のだらしない姿が見られて嬉しい。私だけが見ることのできる隼のだらしない姿。二時間近く待っていた甲斐があった。
「さ、早くしないと置いていっちゃうからね〜」
「お、おい!待って・・・」
話しながら身なりを整えている隼を教室に置き去りにして、一足先に昇降口へと向かう私。
一人で歩いていると、奏真くんのことが頭に浮かぶ。
『ごめん、今日は隼と帰るよ』と告げた時の彼の顔が未だに忘れられない。普段から笑顔を絶やさない奏真くんから、笑顔が消えるところなんて初めて見たかもしれない。
『そっか。じゃ、また明日』と去っていく彼の後ろ姿は、いつも見る大きな背中よりもだいぶ小さく見えた。
勘違いしてはいけないけど、勘違いしてしまいそうになる。もしかすると、奏真くんも私のことを...好き?
学校の看板とも言える二人から、好意を寄せられているなんて女子たちからしたら、とんでもない名誉に値するだろう。
私はずっと隼に想いを寄せてきたんだ。でも、奏真くんのことがいいなと思っている欲張りな自分もいる。
きっとそう遠くない日に、私が決断を迫られる日が来るのは間違いないだろう。その時、私はしっかり答えを出せるのだろうか。
(あぁぁぁぁ!なんでこうなるんだよ。なんで学校の二大イケメンが私みたいなやつを・・・私より可愛い人なんてたくさんいるのに〜!)
「ちょっ、莉音! 置いていくなよ!」
「きゃっ!」
後ろから腕を強く引かれ、よろめく私の体を隼が優しく包み込む。学校でハグする形になってしまった私たち。
「・・・ごめん。抱きつくつもりではなかったんだ・・・」
「うん・・・」
「あのさ・・・」
「うん」
「もう少しだけ、このままでいてもいいか?」
「少しだけね」
ゆっくりと彼の背中へと手を回していく私の短い腕。私の腕では、隼の体から離れないようにくっつくのが精一杯。
それに比べ、彼の腕は私をしっかりと抱きしめる。強くなく、弱くもなく適度に離れないような力加減で。
(隼の匂いだ・・・この匂いを嗅いでいると落ち着くんだよな〜)
「莉音、小さくなったな」
「隼が大きくなりすぎただけでしょ」
「確かに。でも、昔も今も莉音の匂いは変わらないな。優しい甘い香りがする」
「えっ!」
(隼も私と同じことを思ってたんだ)
「どうした?」
「な、なんでもないよ!」
抱き合っている私たちの右側から、照らされる夕日の光が廊下に私たちの影を映し出していく。
密着している身長差のある影が、長い長い廊下に伸びきっていた。まるで、これからの私たちの進む道を示しているかのように。
今日も隼は、部活があるので私は終わるまで待っていないといけない。前に『部活見に行ってもいい?』と聞いたら、即答で断られた。
理由はわからないが、本当に嫌そうにしていたので、私は部活がない日は教室で時間を潰している。
ちなみに隼はバスケ部で、一年生ながらもう既にレギュラーの座を獲得している。私は、華道部に所属している。週三の部活のため、気楽でいいのが最大のメリット。
でも、いざ部活になると皆が真剣になるのが、また面白いところではある。その気迫はそこらへんの運動部にも負けないだろう。
それもそのはず、うちの華道部は生花の全国大会でも名門と言われるくらいなのだから。
今日は、オフの日なのでのんびりと隼のことを勉強でもして待っているとしよう。
教室には私しかいないので、優雅にこの広々とした空間を独占できる。
"ガラガラ"
教室の前方に取り付けられているスライド式の扉が開く。作り上勝手に開くことはない。誰かが開けた時しか開かないのだから。
「あれ、なな。間違った、莉音ちゃん」
教室に入ってきたのは、制服のワイシャツの袖を捲って着崩した姿の奏真くんだった。
「部活じゃなかったの?」
「それがさ、顧問が急に外に出て行かないといけないらしくて、それで今日はオフになっちゃった」
「そうなんだ」
「莉音ちゃんは何してるの?」
「私は隼が部活終わるの待っているところ」
「あぁ、幼馴染の彼ね」
「うん。あと二時間は待ってないといけないけどね」
「それは大変だね。もし、よかったらだけど・・・今日は僕と一緒に帰らない?」
「えっ?なんで私なの・・・」
「おかしなこと言うね。僕が莉音ちゃんと一緒に帰りたいからって理由じゃだめかな?」
(何その言い方。可愛すぎて断ることが難しいじゃん)
私の内心は葛藤していた。隼を待っていようか、奏真くんと今日だけは一緒に帰ろうか。
結局私は、彼を選ぶことにした。この選択が正しかったのか、間違っていたのかは私にはわからない。
きっと正しかったはず...だって、またあの笑顔を見ることができたんだから。
「わりぃ、待たせた」
「いいよ、勉強してたから」
急いできたのか、ワイシャツの裾はズボンから出ていて、おまけに靴はバスケットシューズのまま。完璧人間の隼にしては珍しいミス。
それに、体育館からここまで走ってきたのか、遠くからでもわかるほど肩で息をしているのが見える。
「うわっ。これバッシュじゃん!だから、廊下走ってる時キュッキュッうるさかったのか」
「隼・・・制服もぐちゃぐちゃだからね」
「・・・マジじゃん」
いつだって、隙のないかっこいいはずの隼のだらしない姿が見られて嬉しい。私だけが見ることのできる隼のだらしない姿。二時間近く待っていた甲斐があった。
「さ、早くしないと置いていっちゃうからね〜」
「お、おい!待って・・・」
話しながら身なりを整えている隼を教室に置き去りにして、一足先に昇降口へと向かう私。
一人で歩いていると、奏真くんのことが頭に浮かぶ。
『ごめん、今日は隼と帰るよ』と告げた時の彼の顔が未だに忘れられない。普段から笑顔を絶やさない奏真くんから、笑顔が消えるところなんて初めて見たかもしれない。
『そっか。じゃ、また明日』と去っていく彼の後ろ姿は、いつも見る大きな背中よりもだいぶ小さく見えた。
勘違いしてはいけないけど、勘違いしてしまいそうになる。もしかすると、奏真くんも私のことを...好き?
学校の看板とも言える二人から、好意を寄せられているなんて女子たちからしたら、とんでもない名誉に値するだろう。
私はずっと隼に想いを寄せてきたんだ。でも、奏真くんのことがいいなと思っている欲張りな自分もいる。
きっとそう遠くない日に、私が決断を迫られる日が来るのは間違いないだろう。その時、私はしっかり答えを出せるのだろうか。
(あぁぁぁぁ!なんでこうなるんだよ。なんで学校の二大イケメンが私みたいなやつを・・・私より可愛い人なんてたくさんいるのに〜!)
「ちょっ、莉音! 置いていくなよ!」
「きゃっ!」
後ろから腕を強く引かれ、よろめく私の体を隼が優しく包み込む。学校でハグする形になってしまった私たち。
「・・・ごめん。抱きつくつもりではなかったんだ・・・」
「うん・・・」
「あのさ・・・」
「うん」
「もう少しだけ、このままでいてもいいか?」
「少しだけね」
ゆっくりと彼の背中へと手を回していく私の短い腕。私の腕では、隼の体から離れないようにくっつくのが精一杯。
それに比べ、彼の腕は私をしっかりと抱きしめる。強くなく、弱くもなく適度に離れないような力加減で。
(隼の匂いだ・・・この匂いを嗅いでいると落ち着くんだよな〜)
「莉音、小さくなったな」
「隼が大きくなりすぎただけでしょ」
「確かに。でも、昔も今も莉音の匂いは変わらないな。優しい甘い香りがする」
「えっ!」
(隼も私と同じことを思ってたんだ)
「どうした?」
「な、なんでもないよ!」
抱き合っている私たちの右側から、照らされる夕日の光が廊下に私たちの影を映し出していく。
密着している身長差のある影が、長い長い廊下に伸びきっていた。まるで、これからの私たちの進む道を示しているかのように。