二人のイケメンに好かれている私は困っています!
第七話 私の彼氏は君だよ!
あの学校で抱き合った日から数日が経過していた。私たちは、まだ付き合ってはいない。
互いに気持ちは同じはずなのに、どちらかが告白をするのを待っている状況なのかもしれない。
今日はいつもと違って、隼は朝練があるらしく先に学校へと向かって行ってしまった。
もうすぐ大会が近いからということもあり、かなり本人も気合が入っている模様。
普段歩いている道が、一人で歩くと別のようにも感じてしまう。狭い道のはずなのに、一人だからか広く感じてしまう。
(もし、隼が他の子と付き合ったりしたら、私は毎朝こうなってしまうの・・・それは嫌だな)
「おはよう」
(あれ、この声は・・・もしかして)
スーッと私の隣に並ぶ彼。先日私に『一緒に帰らない?』と誘ってくれた君。
「おはよう、奏真くん」
「今日は一人なんだね。良かったら、一緒に登校してもいいかな?」
そんな些細なことでも聞いてくる辺り、本当に誠実な人なんだなと感心する。普通だったら、流れで一緒に登校みたいな形になるのだけれども、彼はそこが違う。
きっと相手の気持ちを尊重できているからこその行動、言動を持っているのだろう。
「もちろん!一人で退屈だったからちょうど良かった」
「良かった・・・また断られるかと思ったよ」
(そうか...いくら完璧とも言われている彼でも、実は緊張しているのか)
「奏真くんはいつもこのくらいに登校しているの?」
「うん、僕も割と学校までは近い方だから歩いて登校してるんだ。だからこのくらいの時間でも間に合うんだ」
「そうなんだね。奏真くんも家近いんだね」
あと学校まで、十分かかるというところで雨が降ってくる。それも結構本格的な雨。今日の天気予報では、雨なんて降らない予報だったのに...
このままでは学校に着く前に制服がびしょびしょに濡れてしまう。今日は体育がないので、着替えるためのジャージすらもない。
「ど、どうしよう。私傘持ってないよ〜」
「大丈夫だよ。僕、折り畳み傘持ってるから。ちょっと待ってね」
「うん」
隣で折り畳み傘をパサっと開く彼。折り畳み傘を常備しているなんて、私よりも女子力が高い。
私のリュックには折り畳み傘ではなく、お腹が減った時のおやつが折り畳み傘の代わりに入っている。
どちらが女子なのか、これではわからない。
「よし、これでよし!莉音ちゃん、僕から離れないようにね」
「・・・うん」
(これってもしかして・・・もしかすると相合傘なんじゃ)
折り畳み傘の面積が小さいあまり、互いの体がくっつくほど近くにいないと濡れてしまう。
「もう少しこっちにおいで?」
「・・・はい」
手首を優しく引かれ、そのまま私たちの手は混じり合う。彼の手を離すことはできた。でも、できなかった。
彼の手は震えていたんだ。隣にいる彼は相当勇気を振り絞って、私の手を取ったんだ。
そう考えると、気安く離すことはできなかった。この時の私は、最低だが揺らいでいたんだ。
正直、どちらが好きなのかわからなくなっていたのかもしれない。
ただ今は、この震えている彼の手を優しく握ることが私にできることだと思った。
「ごめんね。莉音ちゃんは彼のことが・・・でも、ありがとう」
「・・・うん」
私の力無い返事は雨が地面を叩きつける音にかき消された。
周りに生徒がいないことで、私たちはそのまま手を繋いで、学校へと向かった。
よく彼のことを見てみると、彼の体はほとんど濡れている。折り畳み傘が小さいせいか、やはり二人で入るのは無理だった。
彼は自分が濡れるのを我慢する代わりに、私を雨から守ってくれている。それを言葉にするわけでもなく、当たり前かのように。
「莉音ちゃん、濡れてない?」
「大丈夫だよ、ありがとね」
「僕にはこれくらいしかできないからね」
「そんなことないよ。十分すぎるくらいだよ」
(人として私はかっこいいと思うよ)
口には出さず、心の中でそっと呟く。
「あ、あのさ。学校が近くなったら手離すから、それまではこのままでもいいかな?」
「う、うん。いいよ」
ドキッとした。言葉にされると、より心臓がバクバクと鼓動し出す。側から見たら、私たちはカップルに見えてしまうのだろうから。
流石に恋人繋ぎではないといえ、手を繋いでいるのは事実。それにこんな学校でも人気のイケメンな彼と...
「莉音ちゃんの手、小さいけれど温かいや」
「奏真くんの手は大きくて冷たい!」
雨を打ち消すほどの、笑い声が私たちの間で起こる。久しぶりに隼以外の誰かと心の底から笑い合った気がする。
「あ、雨が止んできたね」
「本当だ」
私たちの笑い声が空まで届いたのか、雨雲がどこかへと流れていく。傘を閉じるのに、自然と彼のひんやりとした手が私の手から離れていく。
それが、なぜだか無性に寂しい。中途半端な気持ちはダメだとわかっているのに。
(なんで雨止んじゃうの!)
理不尽な想いを空へとぶつけるが、当然雨など降ってくるわけもない。学校ももう少しなので、タイミング的には良かったのかもしれないが。
「おっはよ!あれ、今日はずいぶん珍しいペアだね」
「あ、萌絵。おはよう!」
「おはよう、もっちゃん」
「もっちゃん!? なんで私はちゃん付なのに、萌絵はあだ名なの!」
「それは・・・とく、べつだからりお・・・」
「いいじゃん、そんなことはさ!なんか、二人とも距離感近くなったね。もしかして、朝何かあった?」
ニヤニヤと私と奏真くんの顔を交互に見てくる萌絵。
(なんで萌絵はいつもこんなに鋭いのだろうか)
「なんもないよ!さ、早く教室に行こうよ」
萌絵の腕を強引に掴み、昇降口へと無理やり引っ張っていく。
私たちの後ろを何か難しい顔をしながらついてくる奏真くん。少し気になったが、今はこの隣にいる親友をどうにかしないといけない。
「あのさ・・・」
後ろを歩いている彼が、私たちの背中に語りかける。
「どうしたの?」
「もっちゃん・・・先に行っててくれないかな。お願い。僕、頑張るよ」
「やっとか。頑張りなよ、そうちゃん!」
「ありがとう」
何が何だか私にはさっぱりわからない。二人にはなんの話なのか理解し合えているらしく、私だけ仲間はずれ。
「じゃ、莉音また後でね〜」
そそくさと靴を履き替え校舎の中へと、走り去ってしまう彼女の後ろ姿を眺めていることしかできなかった。
昇降口に取り残される私と彼。一体今から何が始まるのだろうか。
「莉音ちゃん」
「はいっ!」
緊張のあまり、返事が大きくなってしまい校舎に響き渡る私の声。
周りの生徒たちは、時間がギリギリなためか私たちを他所に各々の教室へと走って向かっていく。
「僕は、あなたのことが好きです。僕とお付き合いしてくれませんか!」
(嘘・・・告白されるなんて思ってもいなかった)
「え、あの、その・・・」
"ドサッ"
何かが床に落ちる音が、私の耳に届いてくる。その物音が誰から発せられたものなのか、私は数秒後に知ることになる。
振り向くと、そこにいたのはタオルを首に巻いた制服姿の隼。
「隼・・・」
「まじかよ・・・先越されちまったな。今日の放課後にするつもりだったのに」
「隼?」
「なぁ莉音。俺は莉音が好きだ。ずっと前から好きだった。冷たいところがあるかもしれない、でもそれは照れ隠しだから。俺と・・・付き合ってほしい!俺には、莉音しかいないから」
(嘘でしょ。学校でイケメンと言われている二人から同時に告白されるなんて・・・)
私を挟んで、二人の男子が右手を前に差し伸ばして、頭を下げたままの状態で固まっている。どちらかの手を取ったら、私はその彼と付き合うことになるのだろう。
悩んだ。でも、私にはこの人しかいない。
そっと彼のそばに歩み寄り、彼の手を優しく包むように握る。汗ばんだ彼の大きな手。
「私も好き! 私と付き合って!」
その瞬間、ホームルームを告げるチャイムの音が校内に鳴り響く。
まるで、私たちの交際を祝ってくれる、結婚式のウエディングベルのように何回も何回も鳴り続けた。
互いに気持ちは同じはずなのに、どちらかが告白をするのを待っている状況なのかもしれない。
今日はいつもと違って、隼は朝練があるらしく先に学校へと向かって行ってしまった。
もうすぐ大会が近いからということもあり、かなり本人も気合が入っている模様。
普段歩いている道が、一人で歩くと別のようにも感じてしまう。狭い道のはずなのに、一人だからか広く感じてしまう。
(もし、隼が他の子と付き合ったりしたら、私は毎朝こうなってしまうの・・・それは嫌だな)
「おはよう」
(あれ、この声は・・・もしかして)
スーッと私の隣に並ぶ彼。先日私に『一緒に帰らない?』と誘ってくれた君。
「おはよう、奏真くん」
「今日は一人なんだね。良かったら、一緒に登校してもいいかな?」
そんな些細なことでも聞いてくる辺り、本当に誠実な人なんだなと感心する。普通だったら、流れで一緒に登校みたいな形になるのだけれども、彼はそこが違う。
きっと相手の気持ちを尊重できているからこその行動、言動を持っているのだろう。
「もちろん!一人で退屈だったからちょうど良かった」
「良かった・・・また断られるかと思ったよ」
(そうか...いくら完璧とも言われている彼でも、実は緊張しているのか)
「奏真くんはいつもこのくらいに登校しているの?」
「うん、僕も割と学校までは近い方だから歩いて登校してるんだ。だからこのくらいの時間でも間に合うんだ」
「そうなんだね。奏真くんも家近いんだね」
あと学校まで、十分かかるというところで雨が降ってくる。それも結構本格的な雨。今日の天気予報では、雨なんて降らない予報だったのに...
このままでは学校に着く前に制服がびしょびしょに濡れてしまう。今日は体育がないので、着替えるためのジャージすらもない。
「ど、どうしよう。私傘持ってないよ〜」
「大丈夫だよ。僕、折り畳み傘持ってるから。ちょっと待ってね」
「うん」
隣で折り畳み傘をパサっと開く彼。折り畳み傘を常備しているなんて、私よりも女子力が高い。
私のリュックには折り畳み傘ではなく、お腹が減った時のおやつが折り畳み傘の代わりに入っている。
どちらが女子なのか、これではわからない。
「よし、これでよし!莉音ちゃん、僕から離れないようにね」
「・・・うん」
(これってもしかして・・・もしかすると相合傘なんじゃ)
折り畳み傘の面積が小さいあまり、互いの体がくっつくほど近くにいないと濡れてしまう。
「もう少しこっちにおいで?」
「・・・はい」
手首を優しく引かれ、そのまま私たちの手は混じり合う。彼の手を離すことはできた。でも、できなかった。
彼の手は震えていたんだ。隣にいる彼は相当勇気を振り絞って、私の手を取ったんだ。
そう考えると、気安く離すことはできなかった。この時の私は、最低だが揺らいでいたんだ。
正直、どちらが好きなのかわからなくなっていたのかもしれない。
ただ今は、この震えている彼の手を優しく握ることが私にできることだと思った。
「ごめんね。莉音ちゃんは彼のことが・・・でも、ありがとう」
「・・・うん」
私の力無い返事は雨が地面を叩きつける音にかき消された。
周りに生徒がいないことで、私たちはそのまま手を繋いで、学校へと向かった。
よく彼のことを見てみると、彼の体はほとんど濡れている。折り畳み傘が小さいせいか、やはり二人で入るのは無理だった。
彼は自分が濡れるのを我慢する代わりに、私を雨から守ってくれている。それを言葉にするわけでもなく、当たり前かのように。
「莉音ちゃん、濡れてない?」
「大丈夫だよ、ありがとね」
「僕にはこれくらいしかできないからね」
「そんなことないよ。十分すぎるくらいだよ」
(人として私はかっこいいと思うよ)
口には出さず、心の中でそっと呟く。
「あ、あのさ。学校が近くなったら手離すから、それまではこのままでもいいかな?」
「う、うん。いいよ」
ドキッとした。言葉にされると、より心臓がバクバクと鼓動し出す。側から見たら、私たちはカップルに見えてしまうのだろうから。
流石に恋人繋ぎではないといえ、手を繋いでいるのは事実。それにこんな学校でも人気のイケメンな彼と...
「莉音ちゃんの手、小さいけれど温かいや」
「奏真くんの手は大きくて冷たい!」
雨を打ち消すほどの、笑い声が私たちの間で起こる。久しぶりに隼以外の誰かと心の底から笑い合った気がする。
「あ、雨が止んできたね」
「本当だ」
私たちの笑い声が空まで届いたのか、雨雲がどこかへと流れていく。傘を閉じるのに、自然と彼のひんやりとした手が私の手から離れていく。
それが、なぜだか無性に寂しい。中途半端な気持ちはダメだとわかっているのに。
(なんで雨止んじゃうの!)
理不尽な想いを空へとぶつけるが、当然雨など降ってくるわけもない。学校ももう少しなので、タイミング的には良かったのかもしれないが。
「おっはよ!あれ、今日はずいぶん珍しいペアだね」
「あ、萌絵。おはよう!」
「おはよう、もっちゃん」
「もっちゃん!? なんで私はちゃん付なのに、萌絵はあだ名なの!」
「それは・・・とく、べつだからりお・・・」
「いいじゃん、そんなことはさ!なんか、二人とも距離感近くなったね。もしかして、朝何かあった?」
ニヤニヤと私と奏真くんの顔を交互に見てくる萌絵。
(なんで萌絵はいつもこんなに鋭いのだろうか)
「なんもないよ!さ、早く教室に行こうよ」
萌絵の腕を強引に掴み、昇降口へと無理やり引っ張っていく。
私たちの後ろを何か難しい顔をしながらついてくる奏真くん。少し気になったが、今はこの隣にいる親友をどうにかしないといけない。
「あのさ・・・」
後ろを歩いている彼が、私たちの背中に語りかける。
「どうしたの?」
「もっちゃん・・・先に行っててくれないかな。お願い。僕、頑張るよ」
「やっとか。頑張りなよ、そうちゃん!」
「ありがとう」
何が何だか私にはさっぱりわからない。二人にはなんの話なのか理解し合えているらしく、私だけ仲間はずれ。
「じゃ、莉音また後でね〜」
そそくさと靴を履き替え校舎の中へと、走り去ってしまう彼女の後ろ姿を眺めていることしかできなかった。
昇降口に取り残される私と彼。一体今から何が始まるのだろうか。
「莉音ちゃん」
「はいっ!」
緊張のあまり、返事が大きくなってしまい校舎に響き渡る私の声。
周りの生徒たちは、時間がギリギリなためか私たちを他所に各々の教室へと走って向かっていく。
「僕は、あなたのことが好きです。僕とお付き合いしてくれませんか!」
(嘘・・・告白されるなんて思ってもいなかった)
「え、あの、その・・・」
"ドサッ"
何かが床に落ちる音が、私の耳に届いてくる。その物音が誰から発せられたものなのか、私は数秒後に知ることになる。
振り向くと、そこにいたのはタオルを首に巻いた制服姿の隼。
「隼・・・」
「まじかよ・・・先越されちまったな。今日の放課後にするつもりだったのに」
「隼?」
「なぁ莉音。俺は莉音が好きだ。ずっと前から好きだった。冷たいところがあるかもしれない、でもそれは照れ隠しだから。俺と・・・付き合ってほしい!俺には、莉音しかいないから」
(嘘でしょ。学校でイケメンと言われている二人から同時に告白されるなんて・・・)
私を挟んで、二人の男子が右手を前に差し伸ばして、頭を下げたままの状態で固まっている。どちらかの手を取ったら、私はその彼と付き合うことになるのだろう。
悩んだ。でも、私にはこの人しかいない。
そっと彼のそばに歩み寄り、彼の手を優しく包むように握る。汗ばんだ彼の大きな手。
「私も好き! 私と付き合って!」
その瞬間、ホームルームを告げるチャイムの音が校内に鳴り響く。
まるで、私たちの交際を祝ってくれる、結婚式のウエディングベルのように何回も何回も鳴り続けた。