【異世界恋愛】【完結】猫族の底辺調香師ですが 極悪竜王子に拾われました。
 優しい木漏れ日。空を見せてくれるなんてへんてこな約束。深い空みたいな蒼い瞳。なにかを渡したような気がする、曖昧な記憶。いつだってこれだけだった。はずなのに。

 ――どうして、ロルフ様は『初恋の彼』のことを銀髪だと言ったの?

 記憶と記憶が結びつくように、何年も靄が掛かっていたものが鮮明になる。

 ――そうだ。私が彼に渡したのはネコと竜の伝説を真似た《香玉》

 それは、十三年前の当時、同い年の娘達の間で流行していたもので、小粒のビーズに香りを閉じ込めるものだった。香水と同じように魔力と香りを閉じ込め楽しむことができるが、単体では無臭で魔力だけを込めると香りを持つまで、持ち主の香りを全て包み隠す特性をもつおもちゃだ。
 ロルフは、初めて会ったときからずっと香りがしなかった。偶然にしてはあまりにもできすぎている気がする。

 ――どうしてこんな大切なことを忘れてしまっていたんだろう。そうよ。おかしいわ。だってあの頃の他のことは覚えているのに『彼』に対する記憶だけが酷く曖昧なんて。

 無理矢理記憶を手繰り寄せるニーナは、突然糸が切れたように意識を手放した。
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